ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

Passion through Performance

2010年10月02日 | 音楽とわたし


炎のト音記号のでっかいポスターが、カーネギーホールの正面に堂々と展示されていた。

今日はあっぱれ秋晴れ!少し冷え込んだけれど、久方ぶりのきれいな真っ青な空。低気圧に弱い頸椎の古傷も、すっかり乾いて気分爽快!



ピンキーとポールの家の隣の庭では、多分チビちゃんの誕生日なのだろう、パーティの用意が始まっていた。



舞台リハのため、わたしだけ先に電車で行き、旦那と拓人と恭平の3人は、まずは旦那の両親のアパートメントに行き、コンサートのためにはるばる遠くから来てくれる(ワシントンD.C.やペンシルバニア)親戚達と一緒に、ピザパーティで腹ごしらえをしてから会場に来ることに。

チケットは、みんなが頑張った結果、600席中525席が売れた。来てくださったみなさん、本当にありがとう!

舞台リハの間は、みんなかなりピリピリしていて、わたしなどはその筆頭のようなもので、とてもいいピアノなのに、自分に返ってくる音が弱いというかボワッとしているというか、歌とのバランスをその場その時で計ることができなくてちょっと慌てた。



客席で聞いてくれている人達には、いいバランスで聞こえているということなので、もうこうなったら普段やっていることをきちんと再現しよう、と思うしかないと腹を決めた。
1部の出演者の通しリハが終わり、2部の人達と入れ替わろうかという時、急に後ろの方からボソボソと「ボクと結婚してくれますか?」という声が聞こえてきた。

はぁ~ん?

振り向くと、ジェーンが棒立ちしているすぐ前で、ボーイフレンドのミッチがひざまずいて、おまけに映画の中の1シーンのように、指輪のケースを開けて差し出しているではないか!?
彼らとは、去年のカーネギーホールのパートナーだったので、とても仲良し。なので思わず、
「あんた、こんなとこでなにやってんの?」と、ギャグのツッコミのノリのおっきな声で言ってしまった。だって、思いっきりジョークかと思ったから。
ところがミッチは、マジ中のマジだった……ひぇ~!ごめ~んミッチ!ということで、もう一度やり直し。

でもね、だいたい、リハーサル中の舞台に、一般の者が上がってくることは禁止されていて、ミッチがそこに居ることがまず有り得ないことだったし、
でも気がつくと、客席には、今回のコンサートをきっかけに初めて会うのだとジェーンが言っていた、彼女とミッチの両親が舞台の上の二人の様子を見守っていた。
そんなん、言うてくれんと気がつかんがな~!!
ジェーンが「イエス!」と言い、立ち上がったミッチと抱き合ってキスしたのを見て、客席から歓声と拍手が上がった。
もうわたしは近くにあったカメラでパチパチ!気分はもう、思いっきりパパラッチ!お詫びとお祝いの気持ちを込めて、撮らせてもらった。

そんなサプライズプロポーズの後、控え室ではお化粧合戦。歌手の皆さんは、いきなりアダムズ・ファミリーの奥さんモーティシアみたいな顔に……どっひぇ~!
あさこはあさこで、昨日偶然町中で会った語学学校の同級生が、プロのヘアメイクさんだとわかり、その彼女にバッチリ決めてもらうべく一旦帰宅したので、わたしは階上に一部屋だけ与えられたピアノ練習場に行って、ちょいとウォーミングアップをした。
すると、どうしてだか、いきなり音がつかめなくなった所が出てきた。前々から、少し心配はしていたけれど、こんなにまで外さなかったのになあ……。

なんて思っているうちに、あっちゃ~下痢になったっぽい?!
ザンケルホールの舞台裏には、一般用のトイレは無く、すべては控え室に併設されたシャワー室の中にある。
けど……どの控え室にも人が必ず居て、そんなとこでできないではないか!
それで、あちこち探しまわり、とうとう最上階の奥の奥の方まで行くと、使用禁止!とはっきり赤い文字で書かれた貼り紙がドアに貼ってあるトイレに行き着いた。
念のために、水が流れるかどうかをチェック。ジャ~、良し、行けそう。

本番がいよいよ近づいてきて、控え室の大きな鏡の前に座り、自分の楽譜を読みながら意識を集中させる。
胸の無意味な高鳴りを抑えようと、立ち上がって首の付け根と肩の力を抜き、足を床に踏ん張って、ゆっくりの腹式呼吸をしていると、「まうみ、座って。わたしの真似してみて」とあさこが言う。
「座った方がここに息が入るから(と、丹田を指差す彼女)。そしてね、こうやってここを動かしながら息をフウッと吐き出すの」
椅子に座り、まず骨盤を前に押し出し、その後腹筋と尾てい骨をしっかりと締め、その状態で腰と太ももを膝の方に押し出す。
ただし、上半身はひねらない。しっかりと正面を向いたまま固定して、動きに合わせて息を吐き出していく。
だんだん気が下っ腹に流れていくのがわかる。浮ついていた動悸も落ち着いてきた。いける。そう思えた。

舞台の演奏はとてもとても気持ち良く、集中も途切れることなく、最後の曲まで弾ききることができた。
あさことも、気持ちを合わせながら前に前に進むことができ、彼女の声が心にすうっと入ってきて、それに応えている自分の心を見ながら弾いているような、今までに経験したことがないような、不思議な心地良さを感じながら弾いた。
それにしても彼女の声は素晴らしい。舞台の上であろうがどこであろうが、その会場の隅々にまで届く響きを、今回はパートナーとして楽しませてもらった。
ありがとうあさこ!いろいろ鍛えてくれてありがとう!共演できて本当に光栄だったよ!



演奏した後、コメディー風の歌を歌う熟年女性と、伴奏をしながら演技して応える若い男性の演奏があり、彼の譜めくりをしながら、寝たふりをする彼を叩き起こしたり、楽譜を指差したりと、わたしもコメディーの役をさせてもらった。す~ごく楽しかった!

そして今日は、わざわざ会場に足を運んでくださるだけで充分なのに、たくさんのお花や贈り物をいただいた。ありがとうございました。



さて、ずっと興奮していて、家に着いたのがもうすでに夜中の1時を過ぎていたのに、それからお花に水をあげたり、台所の片付けをしたり、ブログをこうやって書いたりしてたけれど、ようやく眠くなってきた。

もう寝よっと。おやすみなさい。
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カーネギーホールの舞台に立てる幸せ

2010年10月01日 | 音楽とわたし
今日午後、あさこと最後の合わせをした。
軽く、二回通して、あとは細かい所のチェックやだめ押しなどをしながら、やり過ぎないように気をつけながら練習をした。
明日に力を残しておく。これが今回の一番の練習。
わたしはよく、心配が無くなるまでとか、あそこをもうちょっととか思ってしまい、ついつい弾き過ぎる。
気が焦っているから、疲れていてもそれを無視してしまって、結局本番の朝に疲れが残り、「またやってしもた!」と後悔する。
今回は舞台慣れしたプロのあさこがパートナーなので、そういう弾く以外の準備の仕方も習っている。

今日のテーマは、一度鍵盤を押して出た音の響きを、どうやったらふくらますことができるか、ということだった。
ピアノは実際には、鍵盤を押し込んだ瞬間に出る音量が最大で、その後はひたすら減音していく。それもとんでもないスピードで。
それをあさこは、声や弦楽器のように、ずっと同じ音量とエネルギーを保って次に行ってみて、と切望する。
やってみる。だめ。もう一度。だめ。これでどうだ。違う。じゃあこれは?う~ん。延々と試してみたけれど、結局できなかった。
彼女が帰ってからも、また録音したりして、どんなふうに聞こえるのか自分でも聞いてみた。
指使いを変え、一度に弾く6音の和音のうちの、あまり表に出なくても良さそうな音を弱めに弾いてみた。
でもまだ違う。
そこで、メロディより1オクターブ下でメロディと同じ音を弾いている声部を少し大きめに弾いてみた。
一番マシに聞こえる。
今回はここまでにしよう。まだまだ改良できる所はあるだろうし、問題も残っているけれど、潔く、ここはこれで良しとして、明日は堂々と、わたしなりに頑張って作り上げた音楽を聞いて楽しんでもらおう。

「あのね、どこかでもしコケても絶対に反省なんかしちゃだめだよ!そんなのはとっとと置き去りにして、思いっきり無かったことにして、先に進むの、わかった?」

今日の練習中、いくつかのミスがあったけれど、言いつけを守って反省や後悔をせずに無視した。気分が爽快だった。

「いいねいいね~、あ、まうみ、なんかつまんないこと考え出すかな~って思ったけど、しなかったね~!それでいいんだよ~。とにかく、音楽の流れがそこで止まらない方が大事なんだから」

なんという、神経の細やかなパートナーだことよ!ゲラゲラ笑って大雑把なフリしてるけど、そんなほんの一瞬のわたしの心の中を、歌いながら覗けるなんて……そしてわたしがどう思ったかまでさっと察知できるなんて……ありがたいなあ。

「いや~、また一段と歌いやすくなったわ~。良くなったよまうみ。バッチリ

まあ、明日の今日だからね、ちょっと大げさに褒めてくれたのかもしれないけれど、嬉しかったよあさこ!さんきゅ!

さあ、明日はこれまでの成果がきちんと出せるように、下っ腹にドスンと気合いを入れて、ゆっくり腹式呼吸しながら舞台に臨みたいと思う。

今日はずっと降っていた雨が上がり、気温がスルスルと下がった。夜中には9℃になる予報が出ている。
掛け布団を一枚増やして寝ることにしよう。

明日、夢のカーネギーホールに立つ自分を、見てもらうことが叶わなかった日本に住む人達、魂になった父やデイヴやポールにも、あさことわたしの演奏が届くよう、響きよ飛べ!と強く祈りながら弾こうと思う。

いっぱい応援してくれてほんとにありがとう!感謝しています。

そして、なんか付け足しみたいになっちゃったけれど、この一週間、わたしの健康管理を一手に引き受けて、料理を作ったり鍼を打ってくれたビル、ありがとう!
無事に、健康に、この日を迎えられたのは、あなたのおかげでもあるのです。ありがとう!
コメント (6)
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