昨日の続きです。
「お産が近づいた。初産は里でしなさい。雲平に産婆をやらせる気?」とお杉。
里にカエが帰ると、「ちっともやつれてない。心配していた。ありがたいことだ。紀州一の医者だもの」と言われるが、「お義母さんは期待に反して、冷たくて、ずるい人だった」と言う。「邪推じゃないの?」と言われ、「いいやや子を産んでみせる」と言うカエ。
天井から吊るした綱を両手で持ち、お産の苦しみに耐えるカエ。
生まれた赤ん坊は女の子だった。「この次は男の子。よく養生して」とお杉。
「それから3年、長雨と飢饉は去った」。お勝は息をするたびにグリグリし、乳がんじゃないかと疑うが、案の定その通りだった。「兄さんの痛み止めをください。眠って死ねる」と言うお勝。
お勝のガンはこぶし大で、全身に転移していた。「麻酔薬はまだできてへん」と雲平。(中略)
「お勝が死んだのは、猫の祟りだと言われた」と弟子。「お勝を殺したのはわしだ。力が足りなかった」と雲平。
「また2年。穏やかな世の中。良平も医学を勉強するため、京都に。弟子も多く、長屋を増やした」。
「この猫はまる3日も眠っていたのに、見事に回復した。あとは人間で試すだけだ」と雲平。お杉「実験には私を。親なので何がほしいか分かってる」カエ「私で試して」「大事な娘に何かあったら何を言われるか」「大事な姑に事故があったら」「老い先短い私でいい。あなたは世継ぎを産んで」雲平「やめ、やめ、やめ、やめ、そんなに自信がないのか。では2人に飲んでもらう」。「先に私」とお杉。
「飲んでから2時間しかかからない」と雲平。(中略)
お杉は苦しみだす。「体がとっても熱い。雲平さん、私の……」お杉の内股をつねり、「内股は一番敏感なところ。マンダラケを焼酎で割って飲ませただけ。酔って眠っているのと同じ」。
お杉、目覚める。「ちょうど2時間だ。体の不調は?」「ない。(カエに)あなたに飲んでもらわなくてもよくなったわね」
雲平「麻酔の実験は成功した。今度は母の8倍で試す」カエ「私で試して」「やってくれるか」「はい」
両足を結ぶカエ。
「息を止めて飲み込め。苦しいか? 暑いか?」苦しみだすカエ。
静かに眠るカエ。内股をつねられてもピクリともしない。
カエ目覚める(中略)「もう大丈夫。1時もしたら話せるようになる。栄養のあるものを食べよう」
2人が一緒にいるのを見て、泣き出すお杉。
お杉がうれし泣きしていると勘違いする弟子たち。
「夢は見た? 頭は痛い? 足動く?」と雲平。
カエの内股には多くの痣。
「カエは半月も横になりっぱなし。もう一度私が」とお杉。
カエの娘が風邪をこじらせて死んでしまう。葬列。
「お勝さんの時、麻酔薬があれば助かったのに」とカエ。「最後の実験だ」と雲平。お杉「勝を亡くした時、死んでもいいと思い、実験台になった」。カエ「私も」
麻酔薬で眠らされたカエ、目覚める。「気づいたか? 自分で起きてみろ」「暑い。目が痛む。頭の芯までズキズキと」「姉さんは薬のせいで目を悪くした。お母さんのはただの眠り薬」「カエさん、それを知ってて、あたしにも嘘を……カエさん、あんたという人は」。号泣するお杉。
「カエ、すまなんだ。もっと早く気づいてれば」カエ、目が見えなくなってる。「またやや子ができたみたい」つわりで苦しむカエ。
「お杉が死んで1年」。コユキ「この大きな雲平は母さんそっくり」カエ「コユキさん、声おかしい」「首にグリグリがあって、しんどくて」「血瘤なんでしょう?」雲平「様子を見てみないと」「ガンよ。前から気づいてた」雲平、カエに「女の自害はどうするか知ってるか? 首のここの血管を切るんだ。だからコユキの血瘤を切って取り出せない。私はこれで妹2人を見殺しに。医者の道は深い」
コユキ「姉さん、泣いてるの?」カエ「あなたを嫁にも、やらんと」「私、幸せだった。私、見てたの。お母さんと姉さんの仲を。恐ろしい仲を」「私は医者の家の女子として役に立とうと思ってる」「姉さん、勝ったから」「男というものはすごい。横着にして2人に薬を」
「それから2年後の冬の朝」。雲平「カエ、今日、乳ガンの手術だ。15年の努力が報われる。切って治してみせる。「またやや子が」「めでたい。喜びに喜びが重なった」
「1805年の秋10月、世界で初めて全身麻酔の乳ガンの手術が行われた」。多くの弟子が見守る中、薬を飲ませる雲平。横たわる女。出産に苦しむカエ。麻酔患者、患部を取り出される時だけ痛がる。オギャーという声。「カエ、手術は大成功だ。これからは何でも切れる。やっとカジャのマネだ。皆死なれたお母さんのおかげだ」。
俯瞰の画面。「ここが治療室」「ここが手術室」とカエに説明する雲平。「私は今までと同じで、お母さんが暮らしていた納戸でいい」とカエ。
「村人の間に、また新たな物語が生まれた。それは夫を助け盲目になった人妻の美談である。カエはそれを好まなかった。一層無口になり、人前に出ることを嫌った」。薬草畑に姿を消すカエ。
白黒の画面が美しく、演出の映画であるとともに、画面構成の映画でもあると思いました。
「お産が近づいた。初産は里でしなさい。雲平に産婆をやらせる気?」とお杉。
里にカエが帰ると、「ちっともやつれてない。心配していた。ありがたいことだ。紀州一の医者だもの」と言われるが、「お義母さんは期待に反して、冷たくて、ずるい人だった」と言う。「邪推じゃないの?」と言われ、「いいやや子を産んでみせる」と言うカエ。
天井から吊るした綱を両手で持ち、お産の苦しみに耐えるカエ。
生まれた赤ん坊は女の子だった。「この次は男の子。よく養生して」とお杉。
「それから3年、長雨と飢饉は去った」。お勝は息をするたびにグリグリし、乳がんじゃないかと疑うが、案の定その通りだった。「兄さんの痛み止めをください。眠って死ねる」と言うお勝。
お勝のガンはこぶし大で、全身に転移していた。「麻酔薬はまだできてへん」と雲平。(中略)
「お勝が死んだのは、猫の祟りだと言われた」と弟子。「お勝を殺したのはわしだ。力が足りなかった」と雲平。
「また2年。穏やかな世の中。良平も医学を勉強するため、京都に。弟子も多く、長屋を増やした」。
「この猫はまる3日も眠っていたのに、見事に回復した。あとは人間で試すだけだ」と雲平。お杉「実験には私を。親なので何がほしいか分かってる」カエ「私で試して」「大事な娘に何かあったら何を言われるか」「大事な姑に事故があったら」「老い先短い私でいい。あなたは世継ぎを産んで」雲平「やめ、やめ、やめ、やめ、そんなに自信がないのか。では2人に飲んでもらう」。「先に私」とお杉。
「飲んでから2時間しかかからない」と雲平。(中略)
お杉は苦しみだす。「体がとっても熱い。雲平さん、私の……」お杉の内股をつねり、「内股は一番敏感なところ。マンダラケを焼酎で割って飲ませただけ。酔って眠っているのと同じ」。
お杉、目覚める。「ちょうど2時間だ。体の不調は?」「ない。(カエに)あなたに飲んでもらわなくてもよくなったわね」
雲平「麻酔の実験は成功した。今度は母の8倍で試す」カエ「私で試して」「やってくれるか」「はい」
両足を結ぶカエ。
「息を止めて飲み込め。苦しいか? 暑いか?」苦しみだすカエ。
静かに眠るカエ。内股をつねられてもピクリともしない。
カエ目覚める(中略)「もう大丈夫。1時もしたら話せるようになる。栄養のあるものを食べよう」
2人が一緒にいるのを見て、泣き出すお杉。
お杉がうれし泣きしていると勘違いする弟子たち。
「夢は見た? 頭は痛い? 足動く?」と雲平。
カエの内股には多くの痣。
「カエは半月も横になりっぱなし。もう一度私が」とお杉。
カエの娘が風邪をこじらせて死んでしまう。葬列。
「お勝さんの時、麻酔薬があれば助かったのに」とカエ。「最後の実験だ」と雲平。お杉「勝を亡くした時、死んでもいいと思い、実験台になった」。カエ「私も」
麻酔薬で眠らされたカエ、目覚める。「気づいたか? 自分で起きてみろ」「暑い。目が痛む。頭の芯までズキズキと」「姉さんは薬のせいで目を悪くした。お母さんのはただの眠り薬」「カエさん、それを知ってて、あたしにも嘘を……カエさん、あんたという人は」。号泣するお杉。
「カエ、すまなんだ。もっと早く気づいてれば」カエ、目が見えなくなってる。「またやや子ができたみたい」つわりで苦しむカエ。
「お杉が死んで1年」。コユキ「この大きな雲平は母さんそっくり」カエ「コユキさん、声おかしい」「首にグリグリがあって、しんどくて」「血瘤なんでしょう?」雲平「様子を見てみないと」「ガンよ。前から気づいてた」雲平、カエに「女の自害はどうするか知ってるか? 首のここの血管を切るんだ。だからコユキの血瘤を切って取り出せない。私はこれで妹2人を見殺しに。医者の道は深い」
コユキ「姉さん、泣いてるの?」カエ「あなたを嫁にも、やらんと」「私、幸せだった。私、見てたの。お母さんと姉さんの仲を。恐ろしい仲を」「私は医者の家の女子として役に立とうと思ってる」「姉さん、勝ったから」「男というものはすごい。横着にして2人に薬を」
「それから2年後の冬の朝」。雲平「カエ、今日、乳ガンの手術だ。15年の努力が報われる。切って治してみせる。「またやや子が」「めでたい。喜びに喜びが重なった」
「1805年の秋10月、世界で初めて全身麻酔の乳ガンの手術が行われた」。多くの弟子が見守る中、薬を飲ませる雲平。横たわる女。出産に苦しむカエ。麻酔患者、患部を取り出される時だけ痛がる。オギャーという声。「カエ、手術は大成功だ。これからは何でも切れる。やっとカジャのマネだ。皆死なれたお母さんのおかげだ」。
俯瞰の画面。「ここが治療室」「ここが手術室」とカエに説明する雲平。「私は今までと同じで、お母さんが暮らしていた納戸でいい」とカエ。
「村人の間に、また新たな物語が生まれた。それは夫を助け盲目になった人妻の美談である。カエはそれを好まなかった。一層無口になり、人前に出ることを嫌った」。薬草畑に姿を消すカエ。
白黒の画面が美しく、演出の映画であるとともに、画面構成の映画でもあると思いました。