増村保造監督『陸軍中野学校』その１

　WOWOWシネマで、増村保造監督の’66年作品『陸軍中野学校』を見ました。
　「昭和13年10月、私、三好次郎は幹部候補生として陸軍予備士官学校を卒業。少尉に入官した」のナレーション。軍服を着た次郎を見て、「死んだ父さんによく似ている」と母。「次郎さん、とってもよく似合う」とユキコ（小川真由美）。
　「入れ」。連隊本部に行くように言われる次郎（市川雷蔵）。
　草薙中佐（加藤大介）「入れ。私は参謀本部の草薙中佐だ。立派な体だな。剣道と柔道、どっちをしていた？」「剣道２段です」「帝大を立派な成績で卒業しているな。将来は？」「銀行か会社員に」「女は？」「嫌いではありません」「抱く時は裸に？」「相手次第です」。机の上の地図を指し、「チモール島は？」「書いてありません」。机に布を被せ、「机の上に何があった？」「タバコはチェリー。灰皿の中には吸い殻が２本」「今から一度にいくつかの質問をする」。「この奇妙な参謀本部の中佐に会った日から、私の運命は大きく変わって、一週間後、陸軍省に出頭せよという秘密の命令を受けた。その時私はふと丸の内の商事会社に勤めるユキコのことを考えた」。
　社長「お入んなさい」。入ってきたユキコにコピーを頼む。「ウイスキーや紅茶は贅沢品で制限され、大変迷惑な話だ」。
　「お茶が入りました」とユキコ。「明日から出張だ。すぐ帰る」と次郎。「一生お前たちのそばにいるよ」と母。「私たち、いつ結婚できるの？」「２年で除隊できる」「長いわ。シナ事変のおかげね。戦争なんか大嫌い」「２年なんかすぐだよ」「キスして。私、田舎から飛び出して来てよかった。あなたに出会えた」「留守中母さんを頼む。じゃあ明日、朝が早いから」「もう一度キスして」。
　「翌朝、17人の陸軍少尉が九段の靖国神社に集められ、連れていかれたのは軍人会館の隣、愛国婦人会本部の中にある木造２階建てのバラックだった」のナレーション。「妙なところだ」「何が始まる？」。草薙中佐「本日諸君を集めたのは他でもない。向こう１ヵ年スパイとして教育するためだ。制服を脱ぎ、背広を着て、軍隊用語は禁止だ。以上」。「スパイになれ。意外な言葉に一同は面食らった」のナレーション。「なぜ我々をスパイに？」「優秀な成績だからだ」「なぜ幹部候補生から？」「豊富な常識が必要だ。陸軍学校や士官学校は頭が固くて役に立たん。一流の大学に学び、立派な教養を身につけていなければ」「しかしスパイの仕事は既に陸海軍や外務省でもやってるはずです」「ところが１人残らず素人だ。進歩した諸外国のスパイ、特に400年の伝統を持つ英国のスパイには太刀打ちできん。彼らに負けない一流のスパイになってもらう」「家族や友人には会えないんですか？」「もちろん。諸君は今から本名を捨て、偽名を使え。外部との交際は一切断ってもらいたい。場合によっては戸籍も捨ててもらう」「それでは結婚も出世もあきらめろと？」「諸君は将来大学の総長にも、会社の社長にも、大臣にもなれる立派な青年だが、その諸君は２万人の部隊に匹敵する。１年の教育では君たちでないと無理だ」。「軍人は命令には反抗できない。しかし、そのために私はスパイになったのではない。草薙中佐という人物の情熱に負けたのだ。その時から私は名前を三好次郎から椎名次郎に変えた。ユキコが買ってくれた軍服はトランクの底にしまいこまれ、その後２度と日の目を見なかった」のナレーション。
　お互いに偽名で自己紹介する学校生。「全てを捨ててどうなる？」「一生スパイなんて」「下手な戦死をするよりいいかも」「人間にはスパイ本能があるって言うからな」「島流しみたいなものだ。仲良くなろう」。
　剣道、柔道の練習。エンジンの構造についての講義。飛行機の操縦の講義。「翌日から激しい訓練が開始された。武術や基本的な技術を習ったが、（射撃の練習。無線の練習）しかし教育の中心は政治、経済、外交で、教官は大学教授だった。夜は点呼も門限もなく自由だったが、皆外出もせず、よく勉強した」のナレーション。草薙中佐が現れ、「よう、やっとるな」「アメリカの歴史です」「皆、寿司と酒だ。今夜は勉強は中止。大いに飲んで寝たまえ。寝る子は育つ」。
　「次郎さんから手紙が来ないなんて、あんなに几帳面な人が、どうしたんでしょう？　私、探してみます」とユキコ。
　ユキコの前で「どうも分かりませんな。兵舎を訪ねてみては」。
　「よく分かりませんな。連隊長がご存じかと」
　連隊長「どういうご関係で？　愛人？」「婚約者です」「連隊副指令部に行けば」。
　「分かりませんねえ」「どこへ行けば？」「下士官の紹介状を書いてあげましょう」。（明日へ続きます……）

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