伊豆大島に大きな被害を残して去った台風26号
おまえにも名前があったね アジア名というやつ・・・けれども私が命名しよう
「シナツヒコ」
まだ暗い早朝 目を覚ました私は こんな暴風雨の中を出勤するのはばかげていると思った
しかし 雨はだんだんと小降りになってきたし 電車も本数を減らしながらも運行しているという
行くしかないだろうと 取り替え用の靴や靴下 パンツも持参して ビーンブーツを履いて6時40分に家を出る
雨は大したことはないが 風の強さといったら今までに経験の無いくらい
勿論 その時点でもう傘は閉じている
日頃でもビル風のある 演歌おじさんを見かける広場に出た途端 一歩も前に進めない
進めないどころではなく 横に流され よろよろとするばかり
さらに風は 私を倒し空へと舞いあげるつもりらしい
広場の手すりにつかまりながら 前進を試みる
私よりも少し先を歩いていた人は なんとか無事切り抜けていったというのに 私は駅舎まであと数メートルというところで 頼りにしていた手すりも途絶えてしまい ついに立ち往生してしまった
戻ることもできない 先へも進めないまま どうする私!
ところが この「シナツヒコ」が一瞬ブレスをした
息を吐いているばかりでは苦しかったのだろう
息が長いとされる彼だって 息を吸う瞬間というものがあるのだとわかった
今だとばかり 私は脱兎のごとく駅舎に飛び込んだ
あの姿 安全地帯から見ている人にはさぞ滑稽だっただろうと思う
だが こんなサバイバルは生まれて初めての経験
今までだって軽量級の私 強風の日にはよろけたり 進めない ということが無かったわけではない
だが 風に流され 飛ばされんばかりというのは今回が初めてだった
風の恐ろしさというものを身をもって体感した
電車は普通に動き 地下鉄の階段を上がって会社に向かう頃には もう傘はそう必要ではなくなっていた
風はまだ猛威をふるってはいたが 高いビルの少ない裏道を選んでなんとか到着
着替える必要も無く 始業の頃には太陽も顔を見せ始めた空
あれは何だったのだろうかと思わずにはいられないような 綺麗な青空に変わっていた
ビル風を避けて裏道を選んだために 例の女性があの台風の日々をどう過ごしたかは知ることができなかった
数日後の朝 いつもの場所で朝の支度をしている彼女を見かけてほっとした
あの風では間違いなく飛ばされたであろう痩せ細った体は だぶだぶではあったけれど 厚手の綺麗な服に包まれていた
今日は寒い雨が朝から降り続いている
26号と同じような進路をとり 同じような勢力を持つ台風「シナツヒコ2号」がまた週半ばには近付くようだ
「シナツヒコ」が秋を深めていく
秋は深まってもいいが 人の悲しみは深めないようにと願う
おまえにも名前があったね アジア名というやつ・・・けれども私が命名しよう
「シナツヒコ」
まだ暗い早朝 目を覚ました私は こんな暴風雨の中を出勤するのはばかげていると思った
しかし 雨はだんだんと小降りになってきたし 電車も本数を減らしながらも運行しているという
行くしかないだろうと 取り替え用の靴や靴下 パンツも持参して ビーンブーツを履いて6時40分に家を出る
雨は大したことはないが 風の強さといったら今までに経験の無いくらい
勿論 その時点でもう傘は閉じている
日頃でもビル風のある 演歌おじさんを見かける広場に出た途端 一歩も前に進めない
進めないどころではなく 横に流され よろよろとするばかり
さらに風は 私を倒し空へと舞いあげるつもりらしい
広場の手すりにつかまりながら 前進を試みる
私よりも少し先を歩いていた人は なんとか無事切り抜けていったというのに 私は駅舎まであと数メートルというところで 頼りにしていた手すりも途絶えてしまい ついに立ち往生してしまった
戻ることもできない 先へも進めないまま どうする私!
ところが この「シナツヒコ」が一瞬ブレスをした
息を吐いているばかりでは苦しかったのだろう
息が長いとされる彼だって 息を吸う瞬間というものがあるのだとわかった
今だとばかり 私は脱兎のごとく駅舎に飛び込んだ
あの姿 安全地帯から見ている人にはさぞ滑稽だっただろうと思う
だが こんなサバイバルは生まれて初めての経験
今までだって軽量級の私 強風の日にはよろけたり 進めない ということが無かったわけではない
だが 風に流され 飛ばされんばかりというのは今回が初めてだった
風の恐ろしさというものを身をもって体感した
電車は普通に動き 地下鉄の階段を上がって会社に向かう頃には もう傘はそう必要ではなくなっていた
風はまだ猛威をふるってはいたが 高いビルの少ない裏道を選んでなんとか到着
着替える必要も無く 始業の頃には太陽も顔を見せ始めた空
あれは何だったのだろうかと思わずにはいられないような 綺麗な青空に変わっていた
ビル風を避けて裏道を選んだために 例の女性があの台風の日々をどう過ごしたかは知ることができなかった
数日後の朝 いつもの場所で朝の支度をしている彼女を見かけてほっとした
あの風では間違いなく飛ばされたであろう痩せ細った体は だぶだぶではあったけれど 厚手の綺麗な服に包まれていた
今日は寒い雨が朝から降り続いている
26号と同じような進路をとり 同じような勢力を持つ台風「シナツヒコ2号」がまた週半ばには近付くようだ
「シナツヒコ」が秋を深めていく
秋は深まってもいいが 人の悲しみは深めないようにと願う