このところ仕事が増えて 先日は帰宅が10時を過ぎた
私鉄の始発駅からの帰り ほとんど各駅に乗ることはないのだが
この時間帯になると すぐに発車となる各駅停車と後発の急行とでは
私の場合は同じ時刻の到着になることがある
その日は そんなわけで各駅に飛び乗った
それなりに乗客はいるし 座れはしないが それでも楽に本を広げて読めるのは
疲れた身体のことも空腹のことも忘れられるささやかな幸せ
二駅ほど過ぎた頃だろうか 臭いに気がついた
私は この臭いがなにものであるかを知っている
路上生活者の中でも かなり悲惨な人から漂う臭いである
周囲を見回したが それらしい人はいない
気のせいだろうか
本を再び読み始めたが やはり臭う
ふと斜め前の座席に腰掛けている女性が タオルで鼻を覆っている
やはり 臭うのは確か
私の前の席が空いた頃 立っている乗客もほとんど居なくなった
そうして見渡しがよくなった車内に やはりその人物はいた
肩に一つ大きな袋をかけて 床には4つの手提げ袋
まさに ショッピング・バッグ・レディー
彼女の近くの席に座った女性は 慌てて他の席にと移っていった
私は 何故かそういう行動が取れない
勿論不快であるし 遠くに行ってくれないかなと思う
それでも あからさまに避ける態度は取れないのだ
そういう自分の心と行動の違いに うっすらとジレンマというか 欺瞞を感じることもある
周囲の空気を察したのかどうか あるいはそれも毎度のことなのか
なにやらブツクサ言いながら やがて電車から降りていった
路上生活者で記憶にあるのは 六本木で見た老夫婦らしき人びと
まだ親が健在の頃で そう年齢に差はなさそうだった
汚れた感じはいささかもなく つつましいというのか
華やかな消費だけが尊ばれるような街で あまりに対照的な光景に 親の人生と重ね合わせても
心の奥を掴まれたような気持ちがした
同情や哀れみといった感傷ではなく 世界中のどこにでも転がっている現実のひとつに過ぎないと思っている
だが そういう現実は 決して他人事ではないとも思っている
時と場所と運命が違えば それが私の現実であっても なんら不思議は無いのだ
もうひとり 気になる人がいた
私の住む町の駅で 時々みかけた女性
顔が崩れているのは おそらくは病気のせいだろうが
彼女を見るとき いつも思ったのは この女性にも彼女を生んだ母がいたのだ ということ
電車から彼女が消えて 開いたドアから夜の空気が流れ入ったこともあって
ハンカチやタオルで鼻を覆っていた女性二人は それをはずした
その人たちの心の中からも その臭いは消えたのだろうか
そもそも 心の中にその臭いは侵入したのだろうか
ショッピング・バッグ・レディーはどこに向かったのだろう
それが 豪奢なお屋敷だったら
そうして 奥様 またそんな格好をして と執事かメイドにたしなめられ
あの5つの袋の中に 洋書だの誰が買うのかと思うような革の手帳だの
ゴールド・カードや セレブしか入れないさまざまの会員券なんかが入っていたら・・・
そういう現実だって きっとどこかにはあるはず
私鉄の始発駅からの帰り ほとんど各駅に乗ることはないのだが
この時間帯になると すぐに発車となる各駅停車と後発の急行とでは
私の場合は同じ時刻の到着になることがある
その日は そんなわけで各駅に飛び乗った
それなりに乗客はいるし 座れはしないが それでも楽に本を広げて読めるのは
疲れた身体のことも空腹のことも忘れられるささやかな幸せ
二駅ほど過ぎた頃だろうか 臭いに気がついた
私は この臭いがなにものであるかを知っている
路上生活者の中でも かなり悲惨な人から漂う臭いである
周囲を見回したが それらしい人はいない
気のせいだろうか
本を再び読み始めたが やはり臭う
ふと斜め前の座席に腰掛けている女性が タオルで鼻を覆っている
やはり 臭うのは確か
私の前の席が空いた頃 立っている乗客もほとんど居なくなった
そうして見渡しがよくなった車内に やはりその人物はいた
肩に一つ大きな袋をかけて 床には4つの手提げ袋
まさに ショッピング・バッグ・レディー
彼女の近くの席に座った女性は 慌てて他の席にと移っていった
私は 何故かそういう行動が取れない
勿論不快であるし 遠くに行ってくれないかなと思う
それでも あからさまに避ける態度は取れないのだ
そういう自分の心と行動の違いに うっすらとジレンマというか 欺瞞を感じることもある
周囲の空気を察したのかどうか あるいはそれも毎度のことなのか
なにやらブツクサ言いながら やがて電車から降りていった
路上生活者で記憶にあるのは 六本木で見た老夫婦らしき人びと
まだ親が健在の頃で そう年齢に差はなさそうだった
汚れた感じはいささかもなく つつましいというのか
華やかな消費だけが尊ばれるような街で あまりに対照的な光景に 親の人生と重ね合わせても
心の奥を掴まれたような気持ちがした
同情や哀れみといった感傷ではなく 世界中のどこにでも転がっている現実のひとつに過ぎないと思っている
だが そういう現実は 決して他人事ではないとも思っている
時と場所と運命が違えば それが私の現実であっても なんら不思議は無いのだ
もうひとり 気になる人がいた
私の住む町の駅で 時々みかけた女性
顔が崩れているのは おそらくは病気のせいだろうが
彼女を見るとき いつも思ったのは この女性にも彼女を生んだ母がいたのだ ということ
電車から彼女が消えて 開いたドアから夜の空気が流れ入ったこともあって
ハンカチやタオルで鼻を覆っていた女性二人は それをはずした
その人たちの心の中からも その臭いは消えたのだろうか
そもそも 心の中にその臭いは侵入したのだろうか
ショッピング・バッグ・レディーはどこに向かったのだろう
それが 豪奢なお屋敷だったら
そうして 奥様 またそんな格好をして と執事かメイドにたしなめられ
あの5つの袋の中に 洋書だの誰が買うのかと思うような革の手帳だの
ゴールド・カードや セレブしか入れないさまざまの会員券なんかが入っていたら・・・
そういう現実だって きっとどこかにはあるはず