フーダニット(誰がやったか犯人探し) トリックとアリバイ崩し それが昔のミステリの定番だった
それが大きく変化してきたことは 以前からとっくに気がついてはいたが・・・
米原ワールドを一気に駆け抜けたあと 読みかけの あるいは買いっぱなしの本の山を漁って
そうだ こんな本を買ったっけと見つけた一冊は「あなたに不利な証拠として」(ローリー・リン・ドラモンド)
アメリカ映画の容疑者逮捕の場面でよく耳にする科白
あなたには黙秘する権利がある から始まる「ミランダ警告」の2番目に告げられるものの一部である
5人の女性警官のエピソードからなる短編集に近い一冊だ
まずどっぷりと重い
死と向き合う仕事は色々とあるが こんなにも出口の無い死に直面するのは 兵士を除けば彼らくらいだろう
その特異性は対岸の火事 他人の出来事のはずなのに 読み終えたあとに震える魂が残るのは・・・
著者自身がかつて警官だったというその体験もあるだろうが 静謐だが徹底的なリアリズムと心理描写にある
最初に登場するキャサリンは 犯人を射殺した経歴がある
職務上当然の遂行であったにもかかわらず その時の恐怖と正当性と人を殺したことへの理不尽な思い
そして葛藤
その伝説の彼女も殉職する
最後のサラの章は この本の約半分を占める
出口の無い魂の悲しみと深い孤独を抱えて職務放棄をした彼女への メキシコ系老女の言葉が良い
~恐怖を抱えていたら 自分を赦すことも希望を持つこともできない
多くのことを知っているつもりでも 本当は少ししか知らない
何もかもわかっている人間などいないと理解するまで 幸せには生きられない
自分が強いとうぬぼれてはならない
人は自分の弱さを抱きしめる時 強くなれる~
ここには単純な正義などというものはなく 単純な真実もない
物事の有り様が単純であるべきと思う私だが 生きる上での逃げ口上かもしれない
それは 限られたごくごく一部の人だけが手に入れることができ それを悟り というのだろう
なにもかもわかっている人間などいないということと 自分の弱さだけが よくわかっていることで・・・
暗くて重い雰囲気がお嫌いでない方には お薦めの1冊