おかげさまで生きてます

日々の暮らしのなかで

兄さん

2008年12月04日 | 日記・エッセイ・コラム
事件の詳細はこうだ
 
忙しい日々の中、楽しみにしていた銭湯通いを
2週間していなかった久太郎は
久々のサウナに心躍らせていた
何より、今週は“塩サウナ”のある週だったから
美肌に気を使う彼としては
まさに至福のひと時だったはずだ
 
だが、異変は駐車場から始まっていた
 
(多いな)
 
平日の客入りは多くないはずなのに
駐車場は満杯
脱衣所でもその人の多さに戸惑っていた
客層も違って見える
やけにガタイのいいオッサン連中が
我がもの顔で闊歩していた
 
湯船に浸かり冷えた身体を温め
サウナへ入る下準備も十分終えた彼はサウナ室へ
5人で一杯になるサウナ室には
すでに3人の先客が
臆することなく中へ進むと
見ず知らずのオッサンが笑顔で話しかけてきた
 
「誰か、鍵忘れてますね」
 
確かにロッカーの鍵が置き忘れられていた
 
「誰かが慌てて取りにきますよ」
 
笑顔でそう返したが、特に気にも止めなかった
塩サウナの手順通りに全身に塩を塗り
十分に汗を流した
時計に目をやり、時間が来たことを確認して
出ようとしたとき、闊歩していたオッサン連中が
入ってきた
 
「たのむわぁ!」
 
ガタイのいいオッサンがもう一人のオッサンの
背中に塩を塗りこんだ
 
「ほな、お先!」
 
塗り終えたオッサンが出て行くのと時を同じくして
久太郎がドアに手を掛けた
その瞬間
 
「兄さん、忘れもんですよ」
 
背後から声が
振り向くと、背中に塩を塗りこまれたオッサンが
こっちを見ている
 
(わしのん、ちゃうがな)
 
そう思ったが、ここは先ほどの見知らぬオッサン同様
笑顔で語りかけることにした
 
「それ、最初からありましたよ」
 
と、親切に答えたのと同時に
ガタイオッサンが帰ってきた
 
「ワシ、鍵忘れとったわぁ!」
 
鍵を差し出す塩オッサン
 
ここに至り、久太郎がしばらく悩んだのが
この事件の真相です
 
 
「はて、“兄さん”とはどっちに掛けた言葉だったのか?」

 


コメント
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