赤ちょうちんで酒を飲んでみたい。
この歳になると、未体験ってのはだんだん少なくなって行くもんだけど、
考えてみれば、まだまだ“体験”していない事があるもんだと思う。
例えば、“おでん屋台”
博多に旅行で行った時に、ラーメン屋台には立ち寄った。
まぁ、テレビドラマで見かけるような「屋台」ではなかったが。
引っ張って移動する屋台。イスは木で作った長椅子。
赤ちょうちんをぶらさげて、気弱そうなおやっさんが一人たたずんでいる。
今日最初の客は会社員のようだ。上司と部下だろうか?二人ともくたびれた
表情でネクタイを緩める。
すでに何処かで飲んで来たのだろう。二人とも上体がユラユラと左右に揺れる。
「オヤジ!まずは酒だぁ、酒!」
以外にも大声を出したのは部下の方だ。上司はおやっさんに何か目配せをしている。
二人の前に小皿が出て来る。そして使い古したコップがその上に乗る。
三分の一ほど酒が入った一升瓶を傾け注いでいく。
溢れる酒。コップから溢れた酒は、小皿の上にも満ちていく。
「さぁ、飲もう!」
優しく語りかける上司。部下は一度だけ上司と視線を合わすと、
何かを忘れたいかのように、目の前の酒をイッキにあおる。
「おかわり!」
何があったんだろう?飲み干したコップをおやっさんに突き出す。
「はい」
ただそう言うと、おやっさんは静かに酒を注ぐ。
部下の男は小さな声で何かを呟きながら、そのまま腕を組み目を閉じた。
怒るでもなく諭すでもなく、上司がゆっくりと喋りだす。
聞いているのか、眠ってしまったのか、上司の言葉に反応はない。
だた、上司はゆっくりとした口調で、これまでの自分の人生を振り返っている。
「だよなぁ! おやっさん」
目の前の酒に口をつけながら、おやっさんにも語りかける
「そうですね」
気の効いた言葉なんかいらない。会話に入る事もない。
おやっさんはただ頷いて、目の前のおでんを小皿によそう。
「その内わかるさ、お前の事は誰かが見てるんだから」
誰に語りかけるでもなく、上司は割り箸を割りながら呟いた。
目を閉じていた部下の目には涙が滲んでいた。
って言う感じの“赤ちょうちん”で飲んでみたいもんです。
次回の妄想は“カップル編”でお送りいたします。
乞う御期待!
この歳になると、未体験ってのはだんだん少なくなって行くもんだけど、
考えてみれば、まだまだ“体験”していない事があるもんだと思う。
例えば、“おでん屋台”
博多に旅行で行った時に、ラーメン屋台には立ち寄った。
まぁ、テレビドラマで見かけるような「屋台」ではなかったが。
引っ張って移動する屋台。イスは木で作った長椅子。
赤ちょうちんをぶらさげて、気弱そうなおやっさんが一人たたずんでいる。
今日最初の客は会社員のようだ。上司と部下だろうか?二人ともくたびれた
表情でネクタイを緩める。
すでに何処かで飲んで来たのだろう。二人とも上体がユラユラと左右に揺れる。
「オヤジ!まずは酒だぁ、酒!」
以外にも大声を出したのは部下の方だ。上司はおやっさんに何か目配せをしている。
二人の前に小皿が出て来る。そして使い古したコップがその上に乗る。
三分の一ほど酒が入った一升瓶を傾け注いでいく。
溢れる酒。コップから溢れた酒は、小皿の上にも満ちていく。
「さぁ、飲もう!」
優しく語りかける上司。部下は一度だけ上司と視線を合わすと、
何かを忘れたいかのように、目の前の酒をイッキにあおる。
「おかわり!」
何があったんだろう?飲み干したコップをおやっさんに突き出す。
「はい」
ただそう言うと、おやっさんは静かに酒を注ぐ。
部下の男は小さな声で何かを呟きながら、そのまま腕を組み目を閉じた。
怒るでもなく諭すでもなく、上司がゆっくりと喋りだす。
聞いているのか、眠ってしまったのか、上司の言葉に反応はない。
だた、上司はゆっくりとした口調で、これまでの自分の人生を振り返っている。
「だよなぁ! おやっさん」
目の前の酒に口をつけながら、おやっさんにも語りかける
「そうですね」
気の効いた言葉なんかいらない。会話に入る事もない。
おやっさんはただ頷いて、目の前のおでんを小皿によそう。
「その内わかるさ、お前の事は誰かが見てるんだから」
誰に語りかけるでもなく、上司は割り箸を割りながら呟いた。
目を閉じていた部下の目には涙が滲んでいた。
って言う感じの“赤ちょうちん”で飲んでみたいもんです。
次回の妄想は“カップル編”でお送りいたします。
乞う御期待!