岡井隆
2022年07月24日 | 人
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不来方の城あとに立ち老翁が十五の君をおもひみるとき 岡井隆
あの啄木の歌を下敷きにして、岡井は啄木の青春に思いを馳せている。岡井隆という歌人にそれほど親しんでいるわけではない。手元に一冊の著書がある。題して『遥かなる斎藤茂吉』。14年間の茂吉論の集大成、いう帯が付けられている。この本とて、さほど深く読んでもいない。一点あげれば、岡井がこの本のなかで、「沈黙」を注視していることである。
沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨ふりそそぐ 茂吉
「晩年、しきりに沈黙を主張し、沈黙が即批判であること、世界への復讐であること、そして最後に「除外例なき死」の前奏であることをさとって行った」
と書き、その沈黙のが実は饒舌であることを指摘した。
もう一つ岡井の実像に触れた本がある。小林恭二『俳句という愉しみ』である。「風花句会」と銘打って、当代の代表的俳人に歌人の岡井隆を加えた一泊二日の句会の実況のような本である。その代表的俳人は、三橋敏雄、藤田湘子、有馬朗人、大木あまり、摂津幸彦、小澤實、岸本尚毅である。俳人に加え和歌の第一人者を加え、その異質性が、この句会に深みと面白さを加える。
寒靄といふべきか谿を深うする 岡井隆
句会での評は、「寒靄というほどぴしっとは分からなかった、そのうち靄が濃くなってくる、それとともに寒気も深くなってくる、そこであらためて、寒靄だ!と思ったんでしょうな。そこが「いふべきか」つながったように思うんです」(有馬)
この本を読むと、作句した本人の考え、他の人がどうとらえるかが、リアルタイムで分かる句会の愉しみが満喫できる。岡井隆の人柄も垣間見えるような気がする。