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あの小春日和の翌日から、寒冷前線が南下してきて、一気に寒くなった。木枯しが吹いて、桜の紅葉した葉が、吹き寄せられている。いままで持っていた季節感が、崩れてしまった。寒風の吹くなか、朝散歩をかねた買い物に出かける。驚いたことに昨日まで、疲労感が足に残っていたが、以前と同じような足どりができている。木枯しが背中を押してくれるような感覚だ。夜中の睡眠時間が多くなって、その分身体の動きも軽くなる。胸を張って、背筋を伸ばして、正しい姿勢から心地よい歩きのリズムが生まれる。
雲とぶやいつも北風ひびく丘 谷迪子
体調を崩した妻にかわって家事をした。3、4日して回復した妻が、鍋を磨いている。「いつも鍋をぴかぴかにしておくこと。これが私の自慢。」と言葉少なに言った。圧力鍋も、洗ったつもりであったが、たしかにピカピカではない。洗剤をつけ、布巾で力をこめて磨く。しっかりと時間をかけると、やっと妻がいうピカピカの底が見えてきた。鍋の洗いかただけでも奥が深い。調理士の修行の初めが、鍋磨きであることを思い出した。結婚して間もなく妻が作った糠床も、もう50年も生き続けている。糠床に毎日手を入れてこねて空気を入れる。おかげで、朝採りのキュウリのぬか漬けを毎日たべることができる。作業を習慣にすることが妻の家事の基本だ。長年任せきりにしてきた家事も奥が深い。弱ってきた妻の家事を分担するのは、簡単ではないと思い知らされた。