エープリルフールです。
智子は、夕食が終わった後、みんなが見ていたテレビを一方的に切ると、「ちょっと聞いてもらいたいことがあるの」と言った。その顔は少し緊張していたが、強い決意を表すようでもあった。「あのね、私、好きな人ができたの。その人が恋して恋しくて、仕方がないの」。思い詰めていたものを、とうとう吐き出してしまった。
言わなければ、夫にも子どもたちにも隠し続けてこられたのに、なぜ口に出してしまったのか、自分でもわからなかった。胸のつかえは日毎に大きくなり、自分の力では抑えられなくなってきていた。夫はカッとなって殴るだろうか。結婚して25年、小さな喧嘩はあったけれど、怒鳴ることも手を上げたことも、一度もなかった。子どもたちは、陽気でドジな母親をむしろ優しい目で見ていてくれたのに、裏切り者と罵るだろうか。
そう思うと、何か弁解しなくてはと考えてしまった。「あのね、別に何か不満があるわけじゃないの。毎日、お洗濯して、お掃除して、洗濯物をたたんで、お料理を作って、庭の手入れをして、チビと散歩に出かけて、そんな毎日に不満があるわけじゃないわよ。貴方は優しいし、みんなもそれなりに頑張ってくれているし、だから何も不満はないの。ただ、あの人に出会って、話をしていたら、なぜか心がウキウキしたのよ。そのうちドキドキするようになって、恋しくて仕方なくなってしまったの」。智子は正直に自分の胸のうちを話した。ウソではなかった。十代の子どもと同じだった。
智子の告白は余りに衝撃的だった。誰も何を言っていいのかわからなくなっていた。怒鳴り声や泣き声が怒涛のようにやってくるのか。にぎやかな団欒は修羅場に変わるのか。沈黙を破ったのは俊夫だった。しかしその声は穏やかで優しい響きがあった。「ママに好きな人ができたのに、夫のぼくが許すというのはヘンかも知れないが、いいよ、許すよ。ママは初恋の人。やっと手に入れた人だから、他の人には渡したくない。だから浮気はしてもいいが、離婚はダメだ」。
20歳になる長男が「ママは一途だから、今は周りが見えなくなっているのさ。パパがいいと言うんだから恋してもいいよ。オレも許す。最近のママ、ちょっときれいだし、優しいし、女っぽくなったのは恋していたからか。それ、いいじゃん、最高だよ」。高校2年の長女は「ママは家にばかりいて、世間を知らないと思っていたけれど、やるじゃん。私も賛成。ただし、パパが言うように、離婚をしないことが条件よ」。一番下の中学3年の次女は「へえー、そうなんだ。ママは口やかましくて世間体ばかり気にするから、絶対恋なんかできない人だと思っていたけれど、見直した。ママのハートを射止めた人がどんな人か、一度ぜひ会ってみたいな」。
「それはやめておこう。ママも決して今後は口にしないようにね。ぼくにも子どもたちにもこれまでと全く変わらないママでいてくれ。それなら、家族みんな、ママの恋を許すよ」と俊夫が結んだ。予想もしていなかったとんでもない結末に、智子は少々動揺した。
これから本気で恋人探しをしてみようかしら。なんとなくウキウキした気持ちが湧き上がってきた。
智子は、夕食が終わった後、みんなが見ていたテレビを一方的に切ると、「ちょっと聞いてもらいたいことがあるの」と言った。その顔は少し緊張していたが、強い決意を表すようでもあった。「あのね、私、好きな人ができたの。その人が恋して恋しくて、仕方がないの」。思い詰めていたものを、とうとう吐き出してしまった。
言わなければ、夫にも子どもたちにも隠し続けてこられたのに、なぜ口に出してしまったのか、自分でもわからなかった。胸のつかえは日毎に大きくなり、自分の力では抑えられなくなってきていた。夫はカッとなって殴るだろうか。結婚して25年、小さな喧嘩はあったけれど、怒鳴ることも手を上げたことも、一度もなかった。子どもたちは、陽気でドジな母親をむしろ優しい目で見ていてくれたのに、裏切り者と罵るだろうか。
そう思うと、何か弁解しなくてはと考えてしまった。「あのね、別に何か不満があるわけじゃないの。毎日、お洗濯して、お掃除して、洗濯物をたたんで、お料理を作って、庭の手入れをして、チビと散歩に出かけて、そんな毎日に不満があるわけじゃないわよ。貴方は優しいし、みんなもそれなりに頑張ってくれているし、だから何も不満はないの。ただ、あの人に出会って、話をしていたら、なぜか心がウキウキしたのよ。そのうちドキドキするようになって、恋しくて仕方なくなってしまったの」。智子は正直に自分の胸のうちを話した。ウソではなかった。十代の子どもと同じだった。
智子の告白は余りに衝撃的だった。誰も何を言っていいのかわからなくなっていた。怒鳴り声や泣き声が怒涛のようにやってくるのか。にぎやかな団欒は修羅場に変わるのか。沈黙を破ったのは俊夫だった。しかしその声は穏やかで優しい響きがあった。「ママに好きな人ができたのに、夫のぼくが許すというのはヘンかも知れないが、いいよ、許すよ。ママは初恋の人。やっと手に入れた人だから、他の人には渡したくない。だから浮気はしてもいいが、離婚はダメだ」。
20歳になる長男が「ママは一途だから、今は周りが見えなくなっているのさ。パパがいいと言うんだから恋してもいいよ。オレも許す。最近のママ、ちょっときれいだし、優しいし、女っぽくなったのは恋していたからか。それ、いいじゃん、最高だよ」。高校2年の長女は「ママは家にばかりいて、世間を知らないと思っていたけれど、やるじゃん。私も賛成。ただし、パパが言うように、離婚をしないことが条件よ」。一番下の中学3年の次女は「へえー、そうなんだ。ママは口やかましくて世間体ばかり気にするから、絶対恋なんかできない人だと思っていたけれど、見直した。ママのハートを射止めた人がどんな人か、一度ぜひ会ってみたいな」。
「それはやめておこう。ママも決して今後は口にしないようにね。ぼくにも子どもたちにもこれまでと全く変わらないママでいてくれ。それなら、家族みんな、ママの恋を許すよ」と俊夫が結んだ。予想もしていなかったとんでもない結末に、智子は少々動揺した。
これから本気で恋人探しをしてみようかしら。なんとなくウキウキした気持ちが湧き上がってきた。