名演の3月例会は俳優座の『もし、終電車に乗り遅れたら‥』。原作は1937年生まれのロシア人で、終電車に乗り遅れた2人の青年が寒さをしのぐために上がり込んだ家でウソをついたことから展開された24時間の物語だ。その家には男の子がいた。その子に向かって、「実はこの男が君の本当の兄だ」と言ってしまう。男の子は家を出ていきたかったので、突然現れた兄に驚くが、幸いと思う気持ちもあった。
帰宅した父親もビックリするが、青年の歳を聞いて、まだ結婚する前に愛し合った女性のことを思い出す。会ってみるとなかなかしっかりした青年だ。自分の息子がわざわざ訪ねて来てくれたと信じてしまう。上の娘は初め怪しむが、結婚してサハリンに行くつもりなので、兄の出現を歓迎する。家族のそれぞれの思いが交差し、とうとう本音がさく裂する。
父親は子どもたちを愛し育ててきたのに、家を出ていく親不孝者と怒る。子どもたちは父親の愛情は家に縛り付けることでしかないと非難する。ニセの兄は、疑いを知らない人の好い父親を見捨てていいのかと真剣に思う。相模原市で中学1年の男子が自殺した。親からの虐待から逃れたいと児童相談所に救いを求めたが、親子関係は修復できると判断され、希望を失ったようだ。
テレビは児童相談所の対応を問題にしていた。確かに親から切り離せば死なせずに済んだかも知れない。昨年の5月に少年がコンビニに逃げ込み、警察の保護となって、児童相談所が対応することになった。少年の両親も呼び出し、面接を行っていたのに、両親が面接を拒否するとそれ以上はかかわらなかった。そして父親とのトラブルが続き、少年は親戚の家で首をつって死んだ。
両親は「虐待とは思っていない」「約束を守らなかったのでしつけをした」「理由もなく手を上げることはない」と言う。両親は再婚というから、父親は少年に受け入れてもらいたかっただろうが、少年の立場は考えていない。親は子どもに、ベストを要求することを『立派な子育てをしている』と思っている。それで子どもが思い通りにならないと、罵倒し殴ったり蹴ったりする。親から罵倒や暴力を受けて、「自分が全て悪い」と信じて疑わない子どもは少ない。自分が少年だったらと考えれば分かることなのに、無念だ。