横綱の白鵬が36度目の優勝を果たし、自身がもつ最多優勝記録を更新した。相撲史に残る快挙なのに、涙の記者会見だった。日馬富士との勝負で、白鵬は右手を相手の顔に当て、左へかわして突き落とした。4秒と言われる、余りにもあっけない勝負だった。横綱が変化するのはみっともないと以前から言われてきたが、おそらく無意識に身体が動いてしまったのだろう。
大記録なのに、ヤジが飛び、席を立つ人までいた。白鵬は悔しさが涙となった。昔、大鵬が優勝した時も、「ロシア人の血が流れている」と揶揄する人がいた。モンゴル人も朝鮮人も中国人も、日本人とどこが違うのかと私は思うけど、なぜか忌み嫌う人たちがいる。歴史的に見れば日本人にはこれらの人々の血が流れているはずなのに、なぜ日本人ということに執着するのだろう。
日本人らしいという意味で、乙武洋匡さんのカミさんがそう。乙武さんの行為について、「責任は私のもある」と謝罪文をツイッターに掲載した。ふたりで話し合った結果というのだから他人が口にすることではない。乙武さんはこの夏の参議院議員選挙で自民党が擁立する候補者だった。障害がありながら学校の先生を勤め、教育委員にもなって、幅広く活躍している。頑張っている乙武さんは絶対多くの票を集めるだろうし、自民党としてもよいイメージになったはずだ。
乙武さんが無所属で立候補するとしても、カミさんが応援すると否では大違いだ。ふたりで話し合って決めたというのはそういうことだろう。次女も乙武さんの『五体不満足』を読んで彼のファンになった。誠実でひたすら頑張る姿は人々の涙を誘ったはずだ。その著書のおかげで有名人となり人柄が変わってしまったのかもしれない。金と地位は人を変えると昔から言う。
先日、電車に赤子を抱いた若い夫婦が乗り込んできた。しばらくすると赤子が大きな声で泣き出した。すると私の席の前でスマホをいじっていた若い男が立ち上がり、その夫婦の前まで行き、「泣かさないで」と強い口調で言った。「あのね、赤ん坊が泣くのは自然なこと、夫婦も困っているでしょう。大目に見てあげなさい」と私は怒鳴りたかったがその勇気がなかった。何か世知辛くなっていないかと思うのは私だけなのか。