今晩はマンションの夏祭り。中庭に組み立てられたステージから、大音響の「テスト、テスト」が聞こえてくる。660世帯もあると、それぞれに得意分野の人がいて、電気の配線も、音響設備も、司会業の人もいて出来てしまう。このところ、市の夏祭りと重なっていたりしたので、参加できなかったが、今晩は生ビールを飲みに行こうと思う。
生ビールは1杯300円、焼きそば200円、おにぎり2個で150円、どて煮150円、やきとり1本70円みたらし1本50円など、格安の設定になっている。一律100円とか200円でないから、小銭をたくさん用意しなくてはならないし、これらの作り手も売り手もみな住民の組長さんが担うから、担当する者にとってはますます酷暑の夏祭りになる。
660世帯あっても知り合いになる機会は極めて少ないから、夏祭りがそのよい出会い場になる。お互いを知ることでこのマンションに愛着を持ってもらい、みんなで「ふるさと」を維持してきた。私が入居した頃の人はみな高齢になり、最近は私たちの子どもの世代が増えてきた。ステージの前にテーブルを持って陣取り、家から料理を持ち込んでにぎやかにやるグループもあった。
知り合いがいなければ出ていっても面白くないからと、私の世代やその上の人たちの参加は少なくなった。33歳で入居した私が74歳なのだから、私よりも上の人たちの姿が見えないのも無理はない。組長を経験すると役員に見込まれて、次回は役員に推挙される。先輩役員から、マンションの初期の話や、そればかりでなく人生の機微に富んだ話を聞くことも出来た。
おそらく昭和30年代までの日本の田舎で見られた光景と同じだろう。先輩が後輩に良いことも悪いことも教え、そうすることで地域のコミュニケーションが図られ、伝統が維持されてきた。マンションはその現代版と言える。先輩が「今晩は暑いから、生ビールの後は家で日本酒の冷やでやりましょう」と言う。深酒にならないかと心配になる。