百首歌中に 九条左大臣
咲匂ふ花をひかりにさしそへて木のまを出る春のよの月
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
春の歌とて 平久時
軒近き梅の匂ひもふかき夜のね屋もる月にかほる春風
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)
梅かえはかすみにこめて春の夜の月影にほふ軒の下かせ
(青蓮院入道二品親王尊円詠百首和歌~古典文庫489)
題しらす 皇太后宮大夫俊成
春の夜は軒はの梅をもる月の光もかほる心ちこそすれ
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
花さかり霞のみおも深き夜の春のも中ににほふ月影
(嘉吉三年二月十日前摂政家歌合~続群書類従)
題しらす 中務卿宗尊親王
梅か香の身にしむ床は夢ならてねぬ夜かすめる月をみる哉
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
祐子内親王藤つほにすみ侍けるに、女房うへ人なとさるへきかきり物かたりして、春秋のあはれいつれにか心ひくなとあらそひ侍けるに、人ひとおほく秋にこゝろをよせ侍けれは 菅原孝標女
浅緑花もひとつにかすみつる(イかすみつゝ)おほろにみゆる春の夜の月
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
文集嘉陵春夜詩、不明不暗朧々月といへることをよみ侍ける 大江千里
てりもせすくもりもはてぬ春のよの朧月夜にしく物そなき
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
如月の二十日あまり、南殿の桜の宴せさせたまふ。(略)
夜いたう更けてなむ、事果てける。
上達部おのおのあかれ、后、春宮帰らせたまひぬれば、のどやかになりぬるに、月いと明うさし出でてをかしきを、源氏の君、酔ひ心地に、見過ぐしがたくおぼえたま ひければ、「上の人々もうち休みて、かやうに思ひかけぬほどに、もしさりぬべき隙もやある」と、藤壷わたりを、わりなう忍びてうかがひありけど、語らふべき戸口も鎖してければ、うち嘆きて、なほあらじに、弘徽殿の細殿に立ち寄りたまへれば、三の口開きたり。
女御は、上の御局にやがて参う上りたまひにければ、人少ななるけはひなり。奥の枢戸も開きて、人音もせず。
「かやうにて、世の中のあやまちはするぞかし」と思ひて、やをら上りて覗きたまふ。人は皆寝たるべし。いと若うをかしげなる声の、なべての人とは聞こえぬ、「朧月夜に似るものぞなき」とうち誦じて、こなたざまには来るものか。
(源氏物語・花宴~バージニア大学HPより)
二月やおほろ月夜の影まてもかすめる花のえに社有けれ
(嘉吉三年二月十日前摂政家歌合~続群書類従15上)
ある殿上人、さるべき所へまゐりたりけるに、をりしも雪降りて月おぼろなりけるに、中門の板に候ひて、寝殿なる女房にあひしらひけるが、「このおぼろ月はいかがし候ふべき」と言ひたりければ、女房、返事(かへりこと)はなくて、とりあへずうちよりたたみを押し出だしたりける心ばやさ、いみじかりけり。
照りもせず曇りもはてぬ春の夜のおぼろ月夜にしく物ぞなき
(今物語~講談社学術文庫)
三月十一日、月おぼろにて、おもしろかりしよ、四條大納言、萬里小路大納言など、女房たちあまたさそひて、鷲尾の花ざかりいとおもしろく侍しに、月のかたぶくまであそびて次日、少將内侍、
見ても猶あかぬ名殘ぞをしまるゝ朧月夜の花の下かげ
(弁内侍日記~群書類從)
二月はかり、月のあかき夜、二条院にて人ひとあまたゐあかして物語なとし侍けるに、内侍周防よりふして、枕をかなとしのひやかにいふを聞て、大納言忠家、是を枕にとて、かひなをみすの下よりさし入て侍けれは読侍ける 周防内侍
春のよの夢はかりなる手枕にかひなくたゝむ名こそをしけれ
といひ出し侍けれは、返事によめる 大納言忠家
契ありて春の夜ふかき手枕をいかゝかひなき夢になすへき
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
春夜恋
花の香もうつろふ月の手枕に覚めさらましの春のよの夢
(草根集~日文研HPより)
春の夜は寝(い)こそねられね起きゐつつまもるにとまる物ならなくに
(和泉式部集~岩波文庫)
春、月、明(あ)かき夜、いとどしく入り臥して
寝(ぬ)るほどのしばしも歎きやまるればあたら今宵の月をだに見ず
(和泉式部続集~岩波文庫)
あはれ何處(いづこ)の誰(た)が女子(むすめ)ぞ、花薫(はなかほ)り月霞む宵の手枕(たまくら)に、君が夢路(ゆめぢ)に入らん人こそ世にも果報なる人なれなど、(略)
(高山樗牛・瀧口入道~バージニア大学HPより)
比はきさらぎ十日餘の事なれば、梅津の里の春風に、餘所の匂もなつかしく、大井河の月影も、霞にこめて朧也。
(平家物語~バージニア大学HPより)
比は二月半の事なれば、梅津里の春風は、徐まで匂ふ垣根哉、桂里の月影は、朧に照す折なれや、(略)
(源平盛衰記~バージニア大学HPより)
春の夜の朧月夜の一と時に誰がさかしらに値つけけん
(良寛歌集~バージニア大学HPより)