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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

古典の季節表現 夏 四月一日・首夏・更衣(ころもがへ)

2013年04月01日 | 日本古典文学-夏

三月晦に、「惜春心」の文作りて、四月朔になりぬれば、そのつとめての歌よむに
昨日をば花の蔭にて暮らしてき今日こそ往(い)にし春は惜しけれ
(和泉式部続集~岩波文庫)

四月一日掾久米朝臣廣縄之舘宴歌四首
卯の花の咲く月立ちぬ霍公鳥来鳴き響めよ含みたりとも
 右一首守大伴宿祢家持作之
二上の山に隠れる霍公鳥今も鳴かぬか君に聞かせむ
 右一首遊行女婦土師作之
居り明かしも今夜は飲まむ霍公鳥明けむ朝は鳴き渡らむぞ [二日應立夏節 故謂之明旦将喧也]
 右一首守大伴宿祢家持作之
明日よりは継ぎて聞こえむ霍公鳥一夜のからに恋ひわたるかも
 右一首羽咋郡擬主帳能登臣乙美作
(万葉集~バージニア大学HPより)

廿四日應立夏四月節也 因此廿三日之暮忽思霍公鳥暁喧聲作歌二首
常人も起きつつ聞くぞ霍公鳥この暁に来鳴く初声
霍公鳥来鳴き響めば草取らむ花橘を宿には植ゑずて
(万葉集~バージニア大学HPより)

 四月のついたちの日殿上人山里へいきて郭公をまつ
みやこ人まつをもしらて郭公月のこなたにけふはなかなん
(実方朝臣集~群書類従14)

先帝の御とき卯月のついたちの日うくひすのなかぬをよませ給ひける公忠
春はたゝ昨日はかりを鶯のかきれることもなかぬけふかな
となむよみたりける
(大和物語~バージニア大学HPより)

四月朔日よみ侍ける もとすけ
春はおし郭公はたきかまほしおもひわつらふしつこゝろかな
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

四月ついたちの日よめる 和泉式部
桜色にそめし衣をぬきかへて山郭公けふよりそまつ
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 持統天皇御歌
春過て夏きにけらし白妙の衣ほすてふあまのかく山
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

冷泉院の東宮におはしましける時、百首歌たてまつれとおほせられけれは 源重之
花の色にそめしたもとのおしけれは衣かへうきけふにもある哉
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

ころもをはひとへにかふるけふもなほはるのをしさはかさねてそおもふ
(実国家歌合~日文研HPより)

更衣の心を 前大納言忠良
桜色の花の袂をたちかへてふたゝひ春の名残をそ思ふ
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

夏の歌の中に 従二位宣子
なれきつる花の香おしき衣手を今日たちかへて夏はきにけり
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

家に五首歌よみ侍けるに、同し心(更衣の心)を 等持院贈左大臣
昨日にも空はかはらてもろ人の衣の色に夏は来にけり
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

かくて、四月一日に君だち帰りたまふ。吹上の宮より出で立ちたまふ。その日の饗、常よりも心殊なり。君だち、唐の花文綾の綾の直衣、綾の■(いとへん+兼:かとり)の下襲、薄物の青色の指貫、白襲の綾の細長一襲づつ奉る。
 かくて、御折敷前ごとに参り、机十前ごとに立て並べて、かはらけ始まり御箸下りぬ。御前に舞台結ひ、握打つ。
 かかるほどに、国の守のぬし、今日出で立ちたまふなりとて、行く先にとまりたまふべき御こと設けしに遣はして、みづからは吹上の宮に、国の官率ゐてまうでたまへり。
かくて、ものの音など、惜しむ手なくかき合はせて遊ばしつつ、日高くなりゆけば、急ぎたまふ折に、あるじの君、かはらけ取りてかくのたまふ。
  語らはぬ夏だにも来る今日しもや契りし人の別れ行くらむ
少将、
  かへるとも君を恋ふべき衣をや着れども夏は薄き快を
侍従、
  たち返り会はむとぞ思ふ夏衣濡るなる袖も乾きあへぬに
良佐、
  夏衣今日たつ旅のわびしきは惜しむ涙も漏るるなりけり
(略)
とて、かはらけ度々になりぬ。
かかるほどに、贈り物、引出物、設けたる数のごと奉りたまふ。御馬ども飾り装束きて、闕腋の衣着たる御厩の人ども、馬一つに二人つけつつ、駒形先に立てで、、駒遊びしつつ出でて、次々にみな引き並べたり。かくて、物負ほせたる馬どもは遅れて出でて、かかる引出物の折ごとに、乱声し舞す。
(宇津保物語~新編日本古典文学全集)

 山吹の咲きそむるより、もの言はぬものから、暮れ行く春の色を知らせ顔なるに、山時鳥の、ほのかなるに、<今日は衣を替ふる日>と、思し出でて、
 春過ぎて夏はきぬれどいたづらにぬぎこそかへね波の濡れ衣
(松陰中納言~「中世王朝物語全集16」笠間書院)

壁代もみすにそへたるうす物も今朝立ちかへて袖や涼しき
(草根集~日文研HPより)

四月になりぬ。更衣の御装束、御帳の帷子など、よしあるさまにし出でつつ、よろづに仕うまつりいとなむを、「いとほしう、すずろなり」と思せど、人ざまのあくまで思ひ上がりたるさまのあてなるに、思しゆるして見たまふ。
(源氏物語・明石~バージニア大学HPより)

夏の御方より、御衣更の御装束たてまつりたまふとて、
「夏衣裁ち替へてける今日ばかり古き思ひもすすみやはせぬ」
御返し、
「羽衣の薄きに変る今日よりは空蝉の世ぞいとど悲しき」
(源氏物語・幻~バージニア大学HPより)

(建暦二年四月)二日。天晴る。少将白重を着し、修明・陰明両院、内裏に出仕せしむ。申の時許りに帰り来たる。仰せに依り、衣冠を着して帰参す。宗宣・棟基、白重を着して出仕と云々。近代非職の雲客、一人も更衣する者無し。無慙と謂ふべし。更衣、又習礼有るべきか。然らざれば、永く此の事有るべからず。平座、今日之を行ふと云々。更衣の御装束、同じく今日と云々。
(『訓読明月記』今川文雄訳、河出書房新社)