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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

古典の季節表現  夏 四月二十日頃

2013年04月20日 | 日本古典文学-夏

四月廿日あまりの比、駿河の富士の社にこもりて侍けるに、桜花さかりにみえけれはよみ侍ける 法印隆弁
富士のねは開ける花のならひにて猶時しらぬ山さくらかな
(続後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

 梅の花散りて、くちをしがりし人の、また四月二十余日の程に来たるに
今日もまた何かは来(き)つる一重(ひとへ)だに散りも残らず八重(やへ)の山吹
 「折り枯らしたる枝はおかずや」といひたれば
さてのみはやまじと思へ枝をさへ折り枯らしてぞ井出の山吹
(和泉式部集~岩波文庫)

二十日余りになりて、御前の牡丹の盛りに咲き満ちたるを、ところからは並ぶべうもなくめであへる。げにきらきらしう、花やかなるかたは、をかしき花のさまを、一枝折りてまかでぬれど、例の夕暮は、いづこをはかとなく、浮き立つ心のみまさりて、ながめゐたる空の気色さへ、少し曇(くも)らはしく、時雨うちそそぐよひのまに、ほのめきそむる郭公(ほととぎす)の初音は、いづれの国境(くにざかひ)にも変らざりけり。
(松浦宮物語~小学館・新編日本古典文学全集)

遠山に懸る白雲は、散にし花の形見なり。青葉に見ゆる梢には、春の名殘ぞをしまるゝ。比は卯月廿日餘の事なれば、(略)
庭の夏草茂り合ひ、青柳糸を亂りつゝ、池の浮草浪に漂ひ、錦をさらすかとあやまたる。中島の松に懸れる藤波の、うら紫に咲る色、青葉交りの晩櫻、初花よりも珍しく、岸の山吹咲き亂れ、八重立雲の絶間より、山郭公の一聲も、君の御幸を待がほなり。法皇是を叡覽有て、かうぞ思召しつゞけける。
池水にみぎはの櫻散りしきて、浪の花こそ盛なりけれ。
ふりにける岩の斷間より、落くる水の音さへ、ゆゑび由ある處なり。緑蘿の垣、翠黛の山、繪にかくとも筆も及びがたし。女院の御庵室を御覽ずれば、軒には蔦槿はひかゝり、しのぶ交りの萱草、瓢箪屡空し、草顏淵之巷にしげし、藜でう深鎖せり、雨原憲之樞をうるほすとも謂つべし。
(平家物語~バージニア大学HPより)

比は卯月の廿日余(あまり)の事なれば、比良の高峰の山おろし、さゞ波わたる海上に、はるばると船は漕行ども、跡は波にぞ消にける。青葉に見ゆる木本に、春より影や茂らん澗谷の鶯声老て、初音床敷杜鵑旅の心を慰めり。
(源平盛衰記~バージニア大学HPより)

卯月の二十日ばかり國上より山越えに野積へ行くとて
あしびきの      野積の山を
ゆくりなく      我が越え來れば
をとめ等が      布さらすかと
見るまでに      世を卯の花の
咲くなべに      山時鳥
をちかへり      おのが時とや
來鳴きとよもす
時鳥鳴く聲きけばなつかしみ此の日くらしつ其の山のべに
(良寛の歌集~バージニア大学HPより)