霞中帰雁といへる事をよめる 藤原成通朝臣
声せすはいかてしらまし春霞へたつる空にかへるかりかね
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)
前関白〈一条〉家に百首歌よみ侍けるに、帰雁幽 右近中将経家
朝ほらけ霞のひまの山のはをほのかに帰る春のかり金
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
花ざくら咲くを見すててかりがねの雲ぢにかへる声ぞきこゆる
(二条太皇太后宮大弐集)
暗き空の帰る雁
花をこそ思ひもすてめ有明の月をも待たでかへるかりがね
(建礼門院右京大夫集~岩波文庫)
かりのこゑをきゝて、こしへまかりける人を思てよめる 凡河内躬恒
春くれは雁かへるなり白雪の(イ白雲の)みちゆきふりにことやつてまし
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
土佐の国室生(むろふ)といふ所に住むころ、帰る雁を聞きて 相撲の修理のすけ
かりがねに言(こと)や告げまし君が住む都も同じ方とこそ聞け
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
帰雁の雲井の余所に一声二声(ふたこゑ)音信(おとづるる)を聞給(たまひ)ても、故郷へ言伝せまほしくおぼしけり。
(源平盛衰記~バージニア大学HPより)
帰雁をよめる 大弐三位
かへる雁我が玉づさをことづてむうはの空なる使なりとも
(大弐三位集補遺・雲葉集~岩波文庫「紫式部集」)
帰雁の心をよみ侍ける 祝部宿祢成仲
帰る雁いく雲ゐともしらねとも心はかりをたくへてそやる
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
霞晴れわたりて、入り日の影の長閑(のどか)なるに、打ち寄する波も、紅のやうに見わたさるるに、雁の横折れて行くらん名残をさへ、<悲し>と、思す。
ゆく雁よ我をもさそへ音(ね)になきて秋よりなれし同じ汀に
(松陰中納言~「中世王朝物語全集16」笠間書院)