ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

京都を訪ねて(前)

2017-03-24 21:48:45 | あの頃
 ▼ 初めて京都を訪ねたのは、高校の修学旅行だった。
全く古都に興味などなかった。
 でも、東京から京都までの新幹線にはワクワクした。
車窓から、これまた初めての富士山を見た。
その雄大な美しさは、今も新鮮な驚きのままである。

 京都周辺は、観光バスによる団体見学で、
もっぱら居眠りばかり。
 街並みも景色も目に入らなかった。

 だが、滋賀の石山寺と苔寺で名高い西芳寺だけは、
記憶に残った。
 2つのお寺に流れる静けさと凜とした空気感の魅力を、
17歳なりに感じたらしい。

 「いつか、もう一度訪ねたい。」
お寺を離れる時、そうふり返った気がする。
 しかし、それは実現しないままである。


 ▼ 2度目は、昭和48年のことだ。
2泊3日の新婚旅行である。

 東京都内での挙式と披露宴の後、
そのまま会場から車で東京駅へ行き、京都へ向かった。

 実は2人だけの旅ではなかった。
はるばる私たちの結婚式のために北海道から上京した、
私と家内の両親も一緒、6人による旅行だった。

 ホテルは、3部屋を用意したが、
京都観光は、2台のハイヤーを予約した。
 私と家内が分乗し、両親に付き添うことになった。
ちょっと、変な気がしたが、致し方なかった。

 京都に詳しい先輩教員が、観光ルートを作ってくれた。
清水寺、金閣寺、嵐山、嵯峨野など、
昼食を挟んで巡った。

 龍安寺の庭に着いた時、4人ともドッカと座り込んだ。
枯山水の方丈庭園を見ながら、互いに
「いいところですね。」と言い合っていた。
 「これでよかった」と安堵した。

 北海道から遠く離れた所での結婚に、
諸手を挙げては祝っていなかった家内の父だった。
 この旅行を通して、私と随分距離が縮んだ。


 ▼ 結婚して2年目の夏だ。
まだヨチヨチ歩きの長男を連れて、京都に行った。

 和風旅館を予約していたものの、
計画のない旅だった。

 新幹線で京都駅に降りたが、
旅館に行くには時間があった。
 「こんな時は思い切って、タクシーに乗り込み、
運転手任せにしよう。」

 後部座席に着いて、
「小1時間ほどあるので、
どこか京都らしい所へ案内して下さい。」
 きっと驚くと思いつつ、そう切り出した。

 ベテラン運転手さんは、しばらく発進をためらった。
小さな子をつれた家族3人を、
バックミラーからくり返し見た。

 「少し遠方でもよろしいですか。」
私に念を押して、走り出した。
 そして、運転手さんはハンドルを握りながら、
こうガイドした。

 「これから、お客様をご案内するのは、
洛北にあります『シセンドウ』と言う所です。
 ポエムの詩、仙人の仙、お堂の堂と書いて、
詩仙堂です。
 家康公に仕えた文人の、
石川丈山という方が隠居した所です。
 失礼ですが、文学好きの方と思いましたので、
そちらがいいかと。」

 一度に興味が湧いた。

 宮本武蔵の決闘の地・一乗寺下り松の横を
抜けて、上り坂を進む。
 その坂の途中で下車すると、詩仙堂があった。

 思いのほか小さな山門をくぐる。
若干薄暗い竹林に囲まれた石畳の参道を進む。
それを左に折れたところに玄関があった。

 拝観料を払って入ると、すぐに詩仙の間だ。
私は、その先にある書院の間が好きになった。
 そこに座り、
凹凸窠(でこぼこした土地に建てた住居)にある
庭園を見た。
 次第に、すべての喧騒が私から消え、
透明感だけにしてくれた。

 ここでは『僧都』というらしいが、
静寂の庭に、思い出したかのように「鹿威し」が響いた。

 先人が残した文化の継承に、
癒やされる一時があった。

 あの時の運転手さんには、感謝しきれない。
あれから何度京都を訪ねたろうか。
 その都度、欠かさず私の足は、
詩仙堂に向かった。


 ▼ 2年前のブロクに「喰わず嫌い『ウナギ』編」を記したが、
40歳代半ばまで、私は鰻を口にしなかった。

 従って、京都のこの店でしか食べられない鰻料理に、
目を輝かせたのは、50歳前後のことだと思う。
 情報は、京都旅行のガイドブックだ。

 7条通り、三十三間堂そばにある、
老舗料理店『わらじや』がそれである。
 創業400年、豊臣秀吉が草鞋をぬいで休憩した場所から、
この店名がついたらしい。

 メニューは、鰻のコース料理1つだけ。
抹茶に落雁、先付けが出てから、
この店でしか食べられない『うなべ』と
『う雑炊』が出てくる。

 中骨を抜いた鰻のぶつ切りに、
麩と九条ネギだけのさっぱりとした『うなべ』。

 その後に、別の鍋で今度は、開いた白焼きの鰻と、
ゴボウや人参、椎茸、餅、溶き卵、
ご飯の『う雑炊』が出てくる。
 『うなべ』とは違う味付けで、
私はどちらも好きだ。
 最後は、締めの果物で、口直し。

 珍しい鰻の食べ方に、好みは分かれるのだろう。
私は、おもむきの違う鰻料理に、
京都ならではの奥行きを感じるのだが・・・。




   いつの間にか フキノトウ
コメント
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