伊達も、ようやく春。
この時期になると、
朝のジョギングも少し明るい気分になる。
私一人ではもったいない。
家内を誘うことが多くなった。
つい先日、二人並走して、
いつもの農道へかけ上がった。
このブログに何回か登場した愛犬と一緒に散歩する彼に、
(私はその方を『サンダルに片手ポケット』と勝手に言っている)
出会った。
その方は、朝のあいさつと一緒に、
必ず短いひと言をくれる。
その朝は、久しぶりに家内を見たからだろう。
こんな声が飛んできた。
「母さん、ゆるくないなぁ。」
私は、一瞬、その言葉がのみ込めなかった。
家内も無反応だった。
すぐに二の矢がきた。
「たいへんだなってこと。」
そうだった。
「ハーイ!」
走りながら、家内が素早く応じた。
有珠山と昭和新山を背景にした春、
早朝の伊達でのワンカットである。
しかし、『ゆるくない。』とは、
久しぶりに聞いた北海道言葉だ。
地元でしか耳にできないが、
私の感覚にピッタリくる。
さて、方言の話題である。
小学生の頃、担任の先生が教えてくれた。
「私たちの北海道は、
昔、日本全国から人々が集まってきました。
なので色々な地方の言葉が混ざり合ったので、
東京の言葉と同じになったんですよ。」
私は、北海道の大学を卒業して、
すぐに東京の小学校に赴任した。
だから、言葉遣いだけは、心配していなかった。
なのに、北海道にも方言があることを、
すぐに気づかされた。
体育の準備運動で、校庭を3周走った子ども達に、
「こわいか?」と尋ねた。
首を横にふるのを見て、もう3周走らせたことは、
以前、このブログに書いた。
私にも方言があると痛感したが、
どれがそれかは曖昧だった。
それにともなった失敗エピソードは、数々あった。
ある時、熊本出身の先輩教員と、
そんな失敗談で盛り上がった。
◆ まずは、私から語る。
新米先生の初日だ。5年生の担任だった。
すぐに大掃除があった。
元気のいいY君が、みんなに声をかけながら箒で、
ゴミを集めて、ゴミ箱に入れた。
「それじゃY君、そのゴミ、なげてきて。」
今日初めて顔を合わせた先生からの、声かけである。
明るかったY君の表情が、一変した。
「どこから、なげるんですか?…屋上…か…ら…。」
私を向いたその声は、次第に小さくなっていた。
私は、明るい声で応じた。
「何言ってるんだよ。焼却炉に決まってるだろう。」
ごみ箱をかかえたまま、
Y君は大の仲良しのF君の耳元で、ささやいた。
「焼却炉から、投げるのか。」
「そんな…、違うと思うけど……。」
2人は、ゴミ箱を持って、そっと教室を出て、
隣の教室の先生の所へ行った。
しばらくして2人は、空のゴミ箱をもって、
笑顔で戻ってきた。
「ゴミ、投げてこいって言うから、
本当に投げるのかと思ったよな。」
「ビックリしたよなぁ。」
「そうか、ゴミはなげるじゃなくて、捨てるなんだ。」
私は、2人に明るく詫びた。
2人は、ニコニコしていた。
ホッとした。
◆ 次は、熊本出身の先輩だ。
これまた先輩が新米先生の頃だ。
まず1つ目。
彼は、椅子に腰を下ろす時、必ず「どっ!」と短く言った。
また、反対に腰を上げる時も、
「どっ!」と短く声を発した。
その「どっ!」は、
彼が生まれ育った熊本のその地方では、
正座やあぐらでも、椅子でも、必ずそう言って、
座り、立ち上がるのだと言う。
彼には、ごく普通のこと。
誰もがそう言っていると思っていた。
だから、教室でも「どっ!」と発して、
座ったり、立ったりしていた。
ある日、女の子が不思議そうに訊いた。
「先生、『どっ!』ってなんですか。」
彼は、一瞬混乱した。しかし、
「だって、座ったり立ったりするでしょう。
だから『どっ!』って。」
女の子は、困った顔のまま、その場を去った。
その表情が気に留まった。
教室の子ども達を注意して見た。
誰も「どっ!」などと言ってなかった。
職員室の先生方を注視した。
みんな、無言のまま座り、無言のまま立った。
「どっ!」と言って、平然としていたことに赤面した。
数年後、彼は、同郷の方と結婚した。
奥様は今も、家庭では「どっ!」と言っているとか。
それが座ったり立ったりする時には、
シックリいくと彼も言う。
理解できそうだが、
なんとなく滑稽に思うのは失礼なことだろうか・・。
先輩の2つ目は、『あとぜき』である。
熊本を代表する方言のようだ。
先輩から聞くまで、『あとぜき』など耳にしたことがなかった。
先輩が小中学生の頃、学校の生活目標として、
『あとぜき』の4文字は、
教室や廊下にたびたび掲示された。
この4文字で、目標の意味は十分に理解できたそうだ。
謎解きのような話であった。
熊本で『あとぜき』と言えば、それは、
「出入りのため開けた扉は、最後まできちんと閉めること」
を意味なのだ。
「ちゃんとあとぜきせんかい!」
こんな遣い方をする。
先輩は、その言葉で扉の開閉をしつけられた。
だから、東京で教員になって、
なんのためらいもなく遣った。
教室のドアを開けたまま、廊下に飛び出した子に、
大きな声で言った。
「あとぜき!」
その声はどの子に向けらたのか。
何を意味しているのか。誰にも理解できなかった。
廊下に出た子も、教室にいた子ども達も、
何事もなかったかのような態度のままだった。
先輩は、その反応に違和感を覚えた。
そして、「もしかして、『あとぜき』は方言か・・?!」
ぼう然としたまま、目を丸くした。
さて、『あとぜき』に限らず、
方言には、独特の意味合いや利便性がある。
なので、方言を標準語に直訳するのはなかなか難しい。
それでも、いくつかの北海道の方言を標準語にして、終わる。
・おばんです = 今晩は
・はっちゃきこく = 一生懸命やる
・ぺったらこい = たいら、ひらたい
・みったくない = みっともない
・あずましくない = おちつかない、居心地がよくない
・はんかくさい = ばかみたい
・もちょこい = くすぐったい
・だはんこく = 駄々をこねる
・じょっぴんかる = 鍵をかける、戸締まりをする
・こてんぱ = さんざん
・げれっぱ = 一番びり
・なんもさ = どうと言うことはない

エゾノリュウキンカ≪だて歴史の杜・野草園≫
この時期になると、
朝のジョギングも少し明るい気分になる。
私一人ではもったいない。
家内を誘うことが多くなった。
つい先日、二人並走して、
いつもの農道へかけ上がった。
このブログに何回か登場した愛犬と一緒に散歩する彼に、
(私はその方を『サンダルに片手ポケット』と勝手に言っている)
出会った。
その方は、朝のあいさつと一緒に、
必ず短いひと言をくれる。
その朝は、久しぶりに家内を見たからだろう。
こんな声が飛んできた。
「母さん、ゆるくないなぁ。」
私は、一瞬、その言葉がのみ込めなかった。
家内も無反応だった。
すぐに二の矢がきた。
「たいへんだなってこと。」
そうだった。
「ハーイ!」
走りながら、家内が素早く応じた。
有珠山と昭和新山を背景にした春、
早朝の伊達でのワンカットである。
しかし、『ゆるくない。』とは、
久しぶりに聞いた北海道言葉だ。
地元でしか耳にできないが、
私の感覚にピッタリくる。
さて、方言の話題である。
小学生の頃、担任の先生が教えてくれた。
「私たちの北海道は、
昔、日本全国から人々が集まってきました。
なので色々な地方の言葉が混ざり合ったので、
東京の言葉と同じになったんですよ。」
私は、北海道の大学を卒業して、
すぐに東京の小学校に赴任した。
だから、言葉遣いだけは、心配していなかった。
なのに、北海道にも方言があることを、
すぐに気づかされた。
体育の準備運動で、校庭を3周走った子ども達に、
「こわいか?」と尋ねた。
首を横にふるのを見て、もう3周走らせたことは、
以前、このブログに書いた。
私にも方言があると痛感したが、
どれがそれかは曖昧だった。
それにともなった失敗エピソードは、数々あった。
ある時、熊本出身の先輩教員と、
そんな失敗談で盛り上がった。
◆ まずは、私から語る。
新米先生の初日だ。5年生の担任だった。
すぐに大掃除があった。
元気のいいY君が、みんなに声をかけながら箒で、
ゴミを集めて、ゴミ箱に入れた。
「それじゃY君、そのゴミ、なげてきて。」
今日初めて顔を合わせた先生からの、声かけである。
明るかったY君の表情が、一変した。
「どこから、なげるんですか?…屋上…か…ら…。」
私を向いたその声は、次第に小さくなっていた。
私は、明るい声で応じた。
「何言ってるんだよ。焼却炉に決まってるだろう。」
ごみ箱をかかえたまま、
Y君は大の仲良しのF君の耳元で、ささやいた。
「焼却炉から、投げるのか。」
「そんな…、違うと思うけど……。」
2人は、ゴミ箱を持って、そっと教室を出て、
隣の教室の先生の所へ行った。
しばらくして2人は、空のゴミ箱をもって、
笑顔で戻ってきた。
「ゴミ、投げてこいって言うから、
本当に投げるのかと思ったよな。」
「ビックリしたよなぁ。」
「そうか、ゴミはなげるじゃなくて、捨てるなんだ。」
私は、2人に明るく詫びた。
2人は、ニコニコしていた。
ホッとした。
◆ 次は、熊本出身の先輩だ。
これまた先輩が新米先生の頃だ。
まず1つ目。
彼は、椅子に腰を下ろす時、必ず「どっ!」と短く言った。
また、反対に腰を上げる時も、
「どっ!」と短く声を発した。
その「どっ!」は、
彼が生まれ育った熊本のその地方では、
正座やあぐらでも、椅子でも、必ずそう言って、
座り、立ち上がるのだと言う。
彼には、ごく普通のこと。
誰もがそう言っていると思っていた。
だから、教室でも「どっ!」と発して、
座ったり、立ったりしていた。
ある日、女の子が不思議そうに訊いた。
「先生、『どっ!』ってなんですか。」
彼は、一瞬混乱した。しかし、
「だって、座ったり立ったりするでしょう。
だから『どっ!』って。」
女の子は、困った顔のまま、その場を去った。
その表情が気に留まった。
教室の子ども達を注意して見た。
誰も「どっ!」などと言ってなかった。
職員室の先生方を注視した。
みんな、無言のまま座り、無言のまま立った。
「どっ!」と言って、平然としていたことに赤面した。
数年後、彼は、同郷の方と結婚した。
奥様は今も、家庭では「どっ!」と言っているとか。
それが座ったり立ったりする時には、
シックリいくと彼も言う。
理解できそうだが、
なんとなく滑稽に思うのは失礼なことだろうか・・。
先輩の2つ目は、『あとぜき』である。
熊本を代表する方言のようだ。
先輩から聞くまで、『あとぜき』など耳にしたことがなかった。
先輩が小中学生の頃、学校の生活目標として、
『あとぜき』の4文字は、
教室や廊下にたびたび掲示された。
この4文字で、目標の意味は十分に理解できたそうだ。
謎解きのような話であった。
熊本で『あとぜき』と言えば、それは、
「出入りのため開けた扉は、最後まできちんと閉めること」
を意味なのだ。
「ちゃんとあとぜきせんかい!」
こんな遣い方をする。
先輩は、その言葉で扉の開閉をしつけられた。
だから、東京で教員になって、
なんのためらいもなく遣った。
教室のドアを開けたまま、廊下に飛び出した子に、
大きな声で言った。
「あとぜき!」
その声はどの子に向けらたのか。
何を意味しているのか。誰にも理解できなかった。
廊下に出た子も、教室にいた子ども達も、
何事もなかったかのような態度のままだった。
先輩は、その反応に違和感を覚えた。
そして、「もしかして、『あとぜき』は方言か・・?!」
ぼう然としたまま、目を丸くした。
さて、『あとぜき』に限らず、
方言には、独特の意味合いや利便性がある。
なので、方言を標準語に直訳するのはなかなか難しい。
それでも、いくつかの北海道の方言を標準語にして、終わる。
・おばんです = 今晩は
・はっちゃきこく = 一生懸命やる
・ぺったらこい = たいら、ひらたい
・みったくない = みっともない
・あずましくない = おちつかない、居心地がよくない
・はんかくさい = ばかみたい
・もちょこい = くすぐったい
・だはんこく = 駄々をこねる
・じょっぴんかる = 鍵をかける、戸締まりをする
・こてんぱ = さんざん
・げれっぱ = 一番びり
・なんもさ = どうと言うことはない

エゾノリュウキンカ≪だて歴史の杜・野草園≫