ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

閉校 ・ 廃校に 想う ・ ・ ・

2018-08-17 20:02:03 | 思い
 ①
 ◆ 先週11日のことだ。
兄と家内、私の3人で、登別までお盆のお墓参りに行った。

 その帰り、
「虎杖浜で昼メシを食べないか。」
 兄から誘われた。

 わざわざ行き先まで指定してのことだ。
何か当てがあるのだろうと、二つ返事で応じた。
 
 お墓から、愛車で白老方向に国道を10分程進んだ。
「そこを左に」。
 兄に言われるまま左折。
真新しい大きな看板があった。
 『ナチュの森』

 そのまま1本道を数分行く。
きれいな駐車場に着いた。
 降車してすぐに、そのリゾート感に驚いた。

 小高くて、濃い緑の森に囲まれたそこは、
ゆったりとした柔らかな風を感じさせた。

 静かな音楽が流れていた。
広場の芝生のあちこちで、若い家族づれが、
緑色のパラソルの下で、テーブルを囲んでいる。

 すぐ近くに、白を基調にした2,3階の建物が2棟あった。
それを見て、直感した。
 「ここには、学校があったんだ。」

 「そうなんだ。学校の跡地に、
化粧品会社が工場を造ったんだ。
 レストランもある。」
兄が教えてくれた。

 東京に本社がある化粧品メーカーが、
この地の「湧水」に目をつけた。

 そして、長年、白老町と協議をくり返し、
閉校となった虎杖浜中学校の校庭に、
昨年10月、『ナチュラルファクトリー北海道』と言う
化粧品工場を造り、操業を始めた。

 湧水を使った料理を提供するレストランをはじめ、
自社の化粧品の展示・販売、エステサロン、ハーブなどのガーデンがあり、
そこは、軽井沢や箱根にあるリゾート地を思わせた。

 廃校を利用した素敵な環境に、
自然と嬉しさが生まれた。

 案内してくれた兄に感謝しつつ、
できて間もない『ナチュの森』だが、
今後、軌道に乗り、脚光を浴びることを、しきりに祈った。

 ◆ その翌日、朝刊を手にした。
私の想いを察したかのような、
代弁するかのようなコラムがあった。
 朝日新聞『天声人語』である。

『 生徒は全員海の生き物。教室
 ではウミガメやエイがすいすい
 泳ぐ。跳び箱の中に隠れている
 魚もいれば、わがもの顔で25㍍
 プールを行くシュモクザメもい
 る。映画の世界ではない。高知
 県の室戸岬に今春オープンした「むろと
 廃校水族館」での光景だ▼小欄で先月、
 廃校が年間500校にのぼると書いた。
 一方で、空き校舎の再利用も進んでいる
 と知り、その実例を見に室戸市を訪ねた
 ▼「学校らしさを全面に出しました。大
 人には懐かしく、子どもには親しめる場
 所です」と若月元樹館長(43)。長く飼育
 されているカメなどを「在校生」と紹介
 し、地元の定置網にかかって新たに展示
 された仲間を「転校生」と呼ぶ。遊び心
 である▼12年前まで市立小学校だった。
 戦後の高度成長期には約170人が通っ
 たが、人口減の波にあらがえず廃校に。
 NPO「日本ウミガメ協議会」(大阪府
 枚方市)と市が話し合い、水族館構想が
 浮上。シロアリの巣と化していた校舎を
 市が補修した▼筆者の通った三重県内の
 小学校も昨春、廃校となった。帰省の折
 にのぞいたが、校庭やプール、花壇はほ
 ぼ卒業時のまま。サビの浮いた体育館が
 痛々しかった▼廃校水族館はこの夏、盛
 況が続く。第二の人生を歓声の中で送る
 ことができてきっと校舎も本望だろう。
 廃校を地域のにぎわいの場に変えられれ
 ば、悲しみも乗り越えられる。「廃校シ
 アター」「廃校市場」「廃校自動車学
 校」。何だってあり得る。地域の柔軟
 な発想が問われる大廃校時代である。 』

 少子化と地方の衰退が、閉校・廃校の根幹にある。
時代の大きな流れなのだ。
 あらがえない。

 でも、せめて校舎や校地の再利用を通して、
子ども達が育み、巣立った学校の痕跡を、
しっかりと残してほしいと願う。

 それが、閉校・廃校という『悲しみを乗り越え』る唯一の道だと、
改めて確かめた出来事と朝刊だった。


 ② 
 ◆ さて、閉校・廃校の悲しみについて、
筆を進める。

 40年間の教職生活だったが、
その間、東京都内4区の9校に勤務した。
 幸いと言っていいと思うが、
閉校・廃校になった学校はない。

 しかし、私が管理職になった頃から、
東京都内でも小中学校の統廃合が相次いだ。

 12年も前になるが、
その年、S区内の2校が閉校となった。

 私は、S区の校長会長として、その閉校式で挨拶をした。
まずは、その1つを記す。

 『 今年度、小学校長会長を勤めております
H小学校の塚原でございます。
 S区立小学校27校を代表して、D小学校の閉校にあたり、
ご挨拶をさせて頂きます。

 歴代校長先生を始め、D小学校にゆかりの深い学校関係者の皆様、
そして地域・保護者の皆様、さらには12700名を越える同窓生、
教職員、児童の皆さん、
明治24年に開校してから、116年という、
1世紀をゆうに超える時間を積み重ねてこられた貴校が、
その歴史に幕を閉じる時を迎え、
感慨無量のことと推察いたしております。

 さて、児童の皆さん。私はこれから皆さんに、
「ごんぎつね」の作者として有名な新美南吉さんが書いた
童話『おじいさんのランプ』の一端を、お話をしようと思います。

 貧しい育ち方をした主人公・巳之助は、
その村でたった一軒のランプ屋を始めます。
 明治の中頃、そう、このD小学校が開校して間もない時のことです。
まだローソクの明かりがたよりだった頃に、
ランプは、夜を照らす素晴らしい道具でした。

 しかし、時代が進み、
ランプ屋が軌道にのっていた巳之助の村にも、
電気が引かれることになります。

 初めは色々な理由をつけて反対していた巳之助でしたが、
電気という新しい文明を認めるざるを得なくなり、
ある夜、巳之助は、
店の全てのランプをリヤカーに積んで、持ち出します。
 そして、それに灯をともし、村はずれにある、
池の端の木に吊すのでした。

 赤、青、黄と色とりどりの形をしたランプが、
真っ暗闇の池に照らされ、
巳之助は、その一番大きなランプをめがけて石を投げつけます。
 パーンと大きな音がし、明かりが一つ消えてなくなります。

 その時、巳之助は、
「ランプの時代は終わった。電気という次の新しい時代になる。」
と叫ぶのです。
 パーン。パーン。
三つ目の明かりが消えた時、もう涙で、
巳之助には、ランプが見えなくなっていました。

 児童の皆さん。
巳之助のランプ屋は、こんなやり方で店を閉じました。

実は、私は皆さんより一足先に、
D小の『閉校記念誌』を読ませてもらいました。
 そこには、皆さん一人一人のD小での楽しかった思い出と共に、
S校長先生を始め、多くの方々からは、
D小の閉校を心から惜しみ、悲しむ言葉が沢山記されていました。

 それはあたかも、涙をこらえ、
『D小の時代は終わった。次の新しい時代になる。』と、
色とりどりの思い出というランプを、
パーン、パーンと消しているように、私には思えたのであります。

 児童の皆さん、こんなにもD小を愛し、大切に思う、
先輩と地域の方々と、お家の方と先生に囲まれた学校で、
皆さんは今日まで学んできたのです。
 皆さんには、是非そのことを誇りとし、
来年度からの新しい学校での、
エネルギーにしてほしいと私は願っています。

 結びになりますが、116年間に渡る先輩から後輩へ、
そして地域の多種多様な方々から、育まれてきたD小学校の、
輝かしい伝統と校風に敬意を表する共に、
今後は統合新校『T小学校』にそれを受け継ぎ、
さらに飛躍、発展されますことを願い、
閉校式典の挨拶と致します。』

 「自分の学校が閉校になる。」
私には、その経験がなかった。
 だから、その実感が想像できない。
精一杯、想いを巡らした挨拶が、これだった。

 式を終え、退席する私を、
呼び止める先生がいた。

 「私達の気持ちを代弁して頂いて・・。
ありがとうございます。
 学校がなくなるのは、複雑な気持ちです。
でも新しい時代、なんですよね。
 よかった。
よく分かりました。」

 尋ねると、その先生は、D小学校の卒業生、
そして現在の勤務校だと言う。

 そして、もう1人。
玄関で、私たち来賓を見送るPTA役員・顧問の方々がいた。
 その中に、知った顔の方がいた。

 元PTA会長さんで、地域の名士だ。
いろんな機会に言葉を交わし、
誠実な人柄を知っていた。

 私に近づくなり、言いだした。
「こんなに寂しいとは、分かりませんでした。
娘も息子もお世話にになり、今は孫が通っています。
 私には、思い出のつまった、
たった1つの学校だったんです。」
 ハンカチを取りだし、私の前で頭をたれた。

 「そうでしたか。」
あの時、私には、それ以上の言葉を探せなかった。
 
 ◆ 私が卒業した小学校と中学校は、室蘭にある。
伊達に住み始めてすぐ、訪ねてみた。

 両校とも、閉校になっていた。
そのことを知らなかった。
 校舎のガラス窓が、ベニヤ板でふさがれているのを、
真っ直ぐに見ることができなかった。

 こみ上げてくるものを感じ、急いで立ち去った。
私の少年時代までが朽ちていく。
 そんな気がして、いたたまれなかった。

 今なら、あの時よりも、
D小学校のあの先生とも、元PTA会長さんとも、
悲しみを共有できると思う。 

 



路傍に見つけた『アメリカオニアザミ』?(外来種)    
コメント
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