ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

「最後」を意識して 人生を

2019-12-21 19:51:17 | 思い
 本屋に長時間居座ったのは、久しぶりだった。
いつもなら、話題の小説に目が行くのだが、
どれも興味なく、手にする気になれなかった。

 きっと、気づかないところで、
私が求めているものが変化しているのだろう。
 そんなことを思いながら、文庫本やエッセイ集の棚をうろうろした。

 やはりいつもと違っていた。
本棚の片隅が気になった。
 『幻冬舎新書』のコーナーだ。

 『幻冬舎新書「知る」⇒「考える」⇒「行動する」力を磨くフェア』
と書かれ、どれも哲学じみた名の新書が並んでいた。
 1冊1冊の帯表紙にあるガイドに惹かれた。
こんなことは、初めてだった。

 全てを買い求めたい衝動にかられた。
しかし、「まずは1冊、読んでみてから」。  
 思いとどまって、1冊を選んだ。
 
 『ズルい。冷たい。愚か。だから人間は面白い!』
帯表紙の大文字が気になった。
 丹羽宇一郎さんの『人間の本性』だ。

 著者は、伊藤忠商事で経営トップにいた実業家だ。
また日中友好協会会長を務めてもいる。

 そのような方の著書だからだろうか。
読み進みながら、
「知る」「考える」「行動する」力が、
くすぐられているように感じた。

 その中から、強く打たれた一節について記す。
『人間の本性』の著者は、
その冒頭のタイトルを『第1章 死ぬまで未完成』としていた。
 
 そして、その章に、こんな言葉が載っていた。
『最後に自分の人生を振り返って心に悔いが残ることがないだろうか。
 仕事をはじめ、いろいろな競争に負けたかもしれないけれど、
人間としては誠実に、ちゃんと生きることができたと思えれば最高です。
 最後の最後に、われわれの死に顔が幸不幸を語ってくれることでしょう。』
 
 『心に悔いが残る』、『人間としては誠実』。
若干言い回しに違いはあるが、
「悔い」「誠実」は、最近富みに心が騒ぐワードだ。
 その上、人生の答えは『死ぬまで未完成』で、
『死に顔』が語ると著者は説く。

 正直、背筋が凍るほど衝撃を受けた。
異論など唱えようがない。
 それを受け止めるしかできない。

 しかし、その後、著者は凹みそうな私へ、
そっとエールをくれた。
 それは、『「最後」を意識すると、今日が変わる』。
そんなメッセージである。

 やや飛躍するように思えたが、
読者にこう問うている。
 『最後の晩餐は何にしますか。
……私なら毎日食べている白いご飯に生卵と醤油、
お漬物と味噌汁だけの食事を望みます。
 ……特別なものを食べたいという人は
意外と少ないのではないかと思います』と。 
 
 しばらく時間が必要だったが、その通りと納得した。
『特別なものを食べたい』とは思わない。
 きっと私は、そのメニューに、
いつもの「少量の大根おろしを加えた大粒納豆」を入れるだろう。

 続いて、著者は再び尋ね、こう強調もする。
『人生最後の一日…に何をするか…。
 私ならやはり、最後の晩餐と同じで、
ふだんと変わらぬ一日を望むと思います。
 最後だからといって、いままでしたことがない貴重で
珍しい体験をしたいということはない』と。

 これにも同感である。
住み慣れた伊達の光と風を感じながら、
いつもと変わらない日常を淡々と過ごす。
 それに優る一日はないと思えた。

 だから、『今が大事』と言う。そして、
『「最後」を意識して、自分の人生を見つめてみる……。
 …それによって何気なくすごしている「今」の大切さを、
心から感じることができるはず…』と。  

 気づかされた。
どこかに置き忘れていたことだ。
 『何気ない日常、凡庸に思える日常が、
実はものすごく非凡なものだということ』。

 その凡庸で非凡な日々を大事にすることが、
きっと「悔い」や「誠実」につながると思えた。

 つい曲がりかけていた背筋が、
シャキッと伸びた。
 これを活力と言うのだろうか。
活気づく私がいた。

 だが、著者は甘くない。
それだけすごい方なのだ。
 厳しさも口にする。

『生きることは基本的に困難や苦労が
つきまとうものであり、
 ……いかなる人も、四苦八苦の原則から
外れることは不可能』だと諭す。

 「四苦八苦?」。それは、
『生老病死<しょうろうびょうし>という大きな苦しみに加え、
 愛別離苦<あいべつりく>(愛する人やものとの別れ)、
怨憎会苦<おんぞうえく>(会いたくない人やものに会う)、
求不得苦<ぐふとくく>(欲しいものが手に入らない)、
五陰盛苦<ごおんじょうく>(肉体があるゆえの苦しみ)
の4つの苦しみを加えた』ものである。

『そこから免れることは、
どれほど優れた人であろうと不可能』なのだ。

 「さあ、覚悟して生きていこう!」。
そんな声が、ページの隅から聞こえてきそうだ。

 加えて、こう襟を正せとも。
それは、『人が常に守るべき5つの道徳『仁義礼智信」』だ。

 『利己心を抑えて人を思いやる「仁」、
筋を通し正しいことを行う「義」、
 人間関係を円滑に進めるための社会秩序である「礼」、
道理をわきまえ正しい判断を下す能力である「智」、
 偽らず、欺かず、人の信用を得る「信」。

 さて、いつまで苦しみを越えていけるか。
どこまで崇高な倫理観を忘れないでいられるか。
 肝に銘じながら、今を大事に過ごそう。

 『人間の本性』が教えてくれた宝を刻む。
今、私が求めていたものは、これだった。




  寒風の中で頑張る ホオズキ
コメント
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