伊達に居を構えて、9度目の春である。
この季節の1コマをスケッチしてみる。
▼ 年齢なのだろうか。
夜遅くまで、おきていられない。
10時を待たずに、布団に入る。
そして、本を開いても、10分も持たずに寝入る始末だ。
だからなのか、目覚めが早い。
一度、眠りから覚めると、「二度寝」などなかなかできない。
3週間程前になるだろうか。
いつもよりさらに早い時間に、目ざめた。
カーテンの隙間が、明るい。
時間を確かめると、
4時半を回ったばかりだった。
なのに、外にはもう光りがある。
その驚きが、さらにハッキリとした目覚めを誘った。
もう一度眠ろうとしてみても、
どうにもならない。
家内に気づかれないよう、そっと寝室を出た。
そして、2階の自室のカーテンを開いた。
その窓からは、緩い下りの『嘉右衛門坂通り』が見える。
すっかり雪が解け、道は乾いていた。
次第に明るさを増す空には、一片の雲も浮かんでいない。
この時季の当地の朝らしく、風もない。
その景色は、穏やかな一日の始まりを告げているよう。
寝起き姿のまま、しばらく窓辺から、
その坂を見ていた。
すると、ゆっくりと坂を下る2つの後ろ姿が、
私の視界に入ってきた。
この時間の外は、まだまだ冷えるのだろう。
2人とも、ニット帽に冬用の黒の上下服だった。
男性は、やや足を引きずり、
女性の腰は、少し前かがみになっていた。
何やら会話が弾んでいるようで、
歩みを1歩1歩進めながら、しばしば相手に顔を向け、
時には、笑みを浮かべているような、愉しげな背中だった。
私の視線など気づく訳もない。
早朝も早朝、人も車も通らない日の出前の坂道。
そこを、2人だけの足取りが下って行く。
窓辺からの全景を独り占め、いや二人占めするような映像に、
心で、布施明の『マイウエイ』が流れていた。
▼ 以前から名前だけは知っていた奥さんだった。
昨夏から、朝のアヤメ川散策路でよく出会い、
挨拶を交わすようになった。
「朝、よくエゾリスを見るんです。
すごいですよ。先日は、ここで5匹が遊んでいたんです。
それを、スマホの動画で撮ったんです。見ますか?」。
ある日、奥さんのそんな熱い勢いに押され、
家内と2人でスマホを覗いた。
川幅が1メートル程のアヤメ川を行ったり来たりする5匹が、
映っていた。
「かわいいでしょう。
これを見てから、もうエゾリスの虜です。
毎朝、エゾリスを探して、
ここを歩いているんです。」
それからは、散策路で出会うと、
「エゾリス、いましたか?」が、
私からの挨拶替わりになった。
「ほら、その木の高い枝に」。
奥さんがすかざず、指さす方で、
エゾリスが動き回っているを度々見た。
いつも変わらない。
エゾリスへの熱さが、いつも伝わってきた。
そして、つい先日のことだ。
その奥さんが、エゾリス以外のことを散策路で言いだした。
初めてのことだった。
「すぐそこで、エゾノリュウキンカが咲いていましたよ。」
アヤメ川沿いで、その花を見たことがなかった。
急に興味がわいた。
「それはどこですか?」
奥さんは、わざわざその黄色の花が見える木道まで
私たちを案内してくれた。
トクサが群生する一帯のわずかな隙間に、
あの黄色のエゾノリュウキンカがあった
「私も2日前に初めて気がついたんです。
綺麗ですよね。ずうっと見ていたくなります。」
奥さんは、エゾリス同様、
その虜になりそうな口ぶりだった。
その時、つい私の遊び心が動いた。
春の陽気に免じてほしい。
花を見ながら、いつも以上に明るく言った。
「この花は、きれいな水の所じゃないと育たないそうですね。」
ここまでは、良かった。
その次だ。
3年程前、教えられて、落胆したことをそのまま、
この奥さんにストレートに言い放った。
「食べると、美味しいそうですよ!」。
一瞬、間があった。
「えっ!、食べるんですか。」
奥さんは、驚きの表情のまま、私を見た。
「そうです。別名はヤチブキと言って、
昔から食べていたんですって!」。
「ヤチブキですか。聞いたことがあります。
これがそのヤチブキ・・・。こんなに綺麗なのに・・。」
「私もそれを知ったとき、ショックでした。」
「そうです。ショックです。」
奥さんの表情は曇ったままだった。
失望するのを承知で言いだしたことだ。
少し罪作りだったかも・・・。
でも、そんなことを言えるのも、
春を9度も迎えたからかな・・・。
道路脇で咲き誇る 『春』
この季節の1コマをスケッチしてみる。
▼ 年齢なのだろうか。
夜遅くまで、おきていられない。
10時を待たずに、布団に入る。
そして、本を開いても、10分も持たずに寝入る始末だ。
だからなのか、目覚めが早い。
一度、眠りから覚めると、「二度寝」などなかなかできない。
3週間程前になるだろうか。
いつもよりさらに早い時間に、目ざめた。
カーテンの隙間が、明るい。
時間を確かめると、
4時半を回ったばかりだった。
なのに、外にはもう光りがある。
その驚きが、さらにハッキリとした目覚めを誘った。
もう一度眠ろうとしてみても、
どうにもならない。
家内に気づかれないよう、そっと寝室を出た。
そして、2階の自室のカーテンを開いた。
その窓からは、緩い下りの『嘉右衛門坂通り』が見える。
すっかり雪が解け、道は乾いていた。
次第に明るさを増す空には、一片の雲も浮かんでいない。
この時季の当地の朝らしく、風もない。
その景色は、穏やかな一日の始まりを告げているよう。
寝起き姿のまま、しばらく窓辺から、
その坂を見ていた。
すると、ゆっくりと坂を下る2つの後ろ姿が、
私の視界に入ってきた。
この時間の外は、まだまだ冷えるのだろう。
2人とも、ニット帽に冬用の黒の上下服だった。
男性は、やや足を引きずり、
女性の腰は、少し前かがみになっていた。
何やら会話が弾んでいるようで、
歩みを1歩1歩進めながら、しばしば相手に顔を向け、
時には、笑みを浮かべているような、愉しげな背中だった。
私の視線など気づく訳もない。
早朝も早朝、人も車も通らない日の出前の坂道。
そこを、2人だけの足取りが下って行く。
窓辺からの全景を独り占め、いや二人占めするような映像に、
心で、布施明の『マイウエイ』が流れていた。
▼ 以前から名前だけは知っていた奥さんだった。
昨夏から、朝のアヤメ川散策路でよく出会い、
挨拶を交わすようになった。
「朝、よくエゾリスを見るんです。
すごいですよ。先日は、ここで5匹が遊んでいたんです。
それを、スマホの動画で撮ったんです。見ますか?」。
ある日、奥さんのそんな熱い勢いに押され、
家内と2人でスマホを覗いた。
川幅が1メートル程のアヤメ川を行ったり来たりする5匹が、
映っていた。
「かわいいでしょう。
これを見てから、もうエゾリスの虜です。
毎朝、エゾリスを探して、
ここを歩いているんです。」
それからは、散策路で出会うと、
「エゾリス、いましたか?」が、
私からの挨拶替わりになった。
「ほら、その木の高い枝に」。
奥さんがすかざず、指さす方で、
エゾリスが動き回っているを度々見た。
いつも変わらない。
エゾリスへの熱さが、いつも伝わってきた。
そして、つい先日のことだ。
その奥さんが、エゾリス以外のことを散策路で言いだした。
初めてのことだった。
「すぐそこで、エゾノリュウキンカが咲いていましたよ。」
アヤメ川沿いで、その花を見たことがなかった。
急に興味がわいた。
「それはどこですか?」
奥さんは、わざわざその黄色の花が見える木道まで
私たちを案内してくれた。
トクサが群生する一帯のわずかな隙間に、
あの黄色のエゾノリュウキンカがあった
「私も2日前に初めて気がついたんです。
綺麗ですよね。ずうっと見ていたくなります。」
奥さんは、エゾリス同様、
その虜になりそうな口ぶりだった。
その時、つい私の遊び心が動いた。
春の陽気に免じてほしい。
花を見ながら、いつも以上に明るく言った。
「この花は、きれいな水の所じゃないと育たないそうですね。」
ここまでは、良かった。
その次だ。
3年程前、教えられて、落胆したことをそのまま、
この奥さんにストレートに言い放った。
「食べると、美味しいそうですよ!」。
一瞬、間があった。
「えっ!、食べるんですか。」
奥さんは、驚きの表情のまま、私を見た。
「そうです。別名はヤチブキと言って、
昔から食べていたんですって!」。
「ヤチブキですか。聞いたことがあります。
これがそのヤチブキ・・・。こんなに綺麗なのに・・。」
「私もそれを知ったとき、ショックでした。」
「そうです。ショックです。」
奥さんの表情は曇ったままだった。
失望するのを承知で言いだしたことだ。
少し罪作りだったかも・・・。
でも、そんなことを言えるのも、
春を9度も迎えたからかな・・・。
道路脇で咲き誇る 『春』