当地での10年間、様々な方とふれ合い、
心に刻まれたエピソードも、数多い。
思い出すまま、語録として綴る。
その続編である。
2.愛犬と一緒
半月板損傷と診断され、
ランニングができなくなって、もう2ヶ月になる。
年齢とともに老化のスピードは、加速するようで、
気づくと、太ももの張りがなくなり、弱々しくなった感じだ。
「膝のまわりに筋肉をつけないと、走れるようにはならない。
だから、トレーニング室へ通って鍛えるといい」。
そう思いつつも、
「またあの激痛にみまわれ、歩行に苦労することになったら・・」
と、臆病になっている。
今は、小1時間程度の、
朝の散歩を増やすよう、心がけている。
さて、よく朝ランをしていた頃のことだが、
数々の愛犬連れに出会った。
中には、立ち止まって言葉を交わし、
住まいや名前まで教え合った方もいる。
しかし、こんな方は珍しかった。
私は、当地に移り住み始めてすぐから、
朝ランを始めた。
だから、10年前から、
お気に入りのランニングコースの1つで、
よくこの方とすれ違った。
ゆっくりとした歩調で愛犬と一緒に散歩していた。
姿勢は悪くないが、その方も愛犬も伏し目かちで、
物静かな雰囲気だった。
「気心の知れたカップルが、
同じ視線、同じ呼吸で寄り添いながら歩んでいる」。
そんな感じだった。
だから、他の方とすれ違う時よりも、
私はトーンを押さえ、
やや小さめな声で朝の挨拶をするようにした。
その方は、私の挨拶に一瞬静かに視線を上げ、
そして、無言で会釈を返してくれていた。
同じ時刻に同じ道を愛犬と散歩するのが、
日課なのだろうと思っていた。
ところが、2年ほど前だろうか。
朝ランで、その道を走っても出会わなくなった。
1度が2度3度となり、会わないことが常態となってしまった。
すれ違い際に、挨拶を交わすのは、その方だけじゃない。
気にも止めない日が続き、季節が一周した。
そんなある日、同じ道で、
1人きりで散歩するその方とすれ違った。
相変わらず、ゆっくりと伏し目がちな足どりだった。
私の挨拶に、変わらず無言で会釈した。
数日して、再び1人きりのその方に出会った。
すれ違い際、私は決めた。
その方の近くで立ち止まり、尋ねた。
「ワンちゃん、亡くなられたんですね?」。
その方は、一瞬顔を上げ、私を見てから、
コクリとうなづいた。
「そうでしたか・・。やっぱり。それはお気のどくに」。
私が一礼すると、それに合わせるようにその方も無言のままで頭をさげた。
その後、いつものようにランニングを再開し、別れた。
またまた数日が過ぎた。
同じ道を1人で歩くその方が見えた。
距離が縮まり、走りながら挨拶しようとすると、
珍しくその方が私を見た。
一瞬、足が止まった。
すると静かに私に近づき。言った。
「あのう・・、先日は・・、
うちの子を気にかけてくださり、ありがとうございました」。
小さく頭をさげ、その方は歩きだした。
ただ呆然と、後ろ姿を追った。
突然、雪道を茶色まじりの黒い毛並みの中型犬が、
リードを持ったその方の横を、そっと歩く姿が蘇った。
「愛されていたんだ!」。
胸も目頭もジーンとしていた。
3.秋の夕焼け
昼食を済ませて、しばらくすると、
突然眠気に襲われることが多くなった。
時間に追われる用事がない限り、
その誘いに逆らわず、20分程度の昼寝をする。
目覚めは、期待とは違い、さほどスッキリしない。
ボーとしたまま、2階の自室へ階段を上がる。
机に向かい、キーボードを打ったり、
読書をしたりして、午後を過ごす。
9月に入ると、随分と早い時間から、
西日がガラス窓を通して机上を射る。
その眩しさにたまりかね、
慌ててレースのカーテンを下ろす。
そんなある日、
突然、居間の家内から大きな声が飛んできた。
「ねえ、見てごらん。夕日がすごい!」。
声に誘われ、机を離れ、
レースのカーテンを上げ、窓越しに西空を見た。
朱色に染まった薄雲と天空が輝いていた。
すっかり秋になったのか、
ひときわ夕焼けが色鮮やかだった。
その美しさを窓ガラス越しに見るだけにしておけなかった。
急いで階段を降り、外へ出た。
自宅前の通りまで出ると、
空は一面の大夕焼けだった。
家内も遅れて通りまで出てきた。
会話のないまま並んで、
その美しさにしばらく見とれた。
その時、ご近所のご主人がご自宅の駐車場に車を止めた。
いつもより早い帰宅のようだった。
2人並んで、通りに立つ私たちが気になったらしい。
わざわざ声をかけてきた。
「どうしたんですか。何かあったんですか?」。
「あまりにも夕焼けが素敵なので、見てました!」。
するとご主人は、驚いたように「エ、エェッ!」と、
西空に視線をむけた。
そして、つぶやいた。
「忙しさに、ついつい忘れていました。
すごく綺麗ですね。ありがとうございます」。
「私たちも現職の頃は、夕日を見る余裕もなく、
毎日走り続けてました。仕方ないですよ」。
「そうですか。同じですか」。
ご主人は少し寂しげな表情を浮かべた後、
足早に自宅の玄関へ向かった。
始まった! 稲刈り!
心に刻まれたエピソードも、数多い。
思い出すまま、語録として綴る。
その続編である。
2.愛犬と一緒
半月板損傷と診断され、
ランニングができなくなって、もう2ヶ月になる。
年齢とともに老化のスピードは、加速するようで、
気づくと、太ももの張りがなくなり、弱々しくなった感じだ。
「膝のまわりに筋肉をつけないと、走れるようにはならない。
だから、トレーニング室へ通って鍛えるといい」。
そう思いつつも、
「またあの激痛にみまわれ、歩行に苦労することになったら・・」
と、臆病になっている。
今は、小1時間程度の、
朝の散歩を増やすよう、心がけている。
さて、よく朝ランをしていた頃のことだが、
数々の愛犬連れに出会った。
中には、立ち止まって言葉を交わし、
住まいや名前まで教え合った方もいる。
しかし、こんな方は珍しかった。
私は、当地に移り住み始めてすぐから、
朝ランを始めた。
だから、10年前から、
お気に入りのランニングコースの1つで、
よくこの方とすれ違った。
ゆっくりとした歩調で愛犬と一緒に散歩していた。
姿勢は悪くないが、その方も愛犬も伏し目かちで、
物静かな雰囲気だった。
「気心の知れたカップルが、
同じ視線、同じ呼吸で寄り添いながら歩んでいる」。
そんな感じだった。
だから、他の方とすれ違う時よりも、
私はトーンを押さえ、
やや小さめな声で朝の挨拶をするようにした。
その方は、私の挨拶に一瞬静かに視線を上げ、
そして、無言で会釈を返してくれていた。
同じ時刻に同じ道を愛犬と散歩するのが、
日課なのだろうと思っていた。
ところが、2年ほど前だろうか。
朝ランで、その道を走っても出会わなくなった。
1度が2度3度となり、会わないことが常態となってしまった。
すれ違い際に、挨拶を交わすのは、その方だけじゃない。
気にも止めない日が続き、季節が一周した。
そんなある日、同じ道で、
1人きりで散歩するその方とすれ違った。
相変わらず、ゆっくりと伏し目がちな足どりだった。
私の挨拶に、変わらず無言で会釈した。
数日して、再び1人きりのその方に出会った。
すれ違い際、私は決めた。
その方の近くで立ち止まり、尋ねた。
「ワンちゃん、亡くなられたんですね?」。
その方は、一瞬顔を上げ、私を見てから、
コクリとうなづいた。
「そうでしたか・・。やっぱり。それはお気のどくに」。
私が一礼すると、それに合わせるようにその方も無言のままで頭をさげた。
その後、いつものようにランニングを再開し、別れた。
またまた数日が過ぎた。
同じ道を1人で歩くその方が見えた。
距離が縮まり、走りながら挨拶しようとすると、
珍しくその方が私を見た。
一瞬、足が止まった。
すると静かに私に近づき。言った。
「あのう・・、先日は・・、
うちの子を気にかけてくださり、ありがとうございました」。
小さく頭をさげ、その方は歩きだした。
ただ呆然と、後ろ姿を追った。
突然、雪道を茶色まじりの黒い毛並みの中型犬が、
リードを持ったその方の横を、そっと歩く姿が蘇った。
「愛されていたんだ!」。
胸も目頭もジーンとしていた。
3.秋の夕焼け
昼食を済ませて、しばらくすると、
突然眠気に襲われることが多くなった。
時間に追われる用事がない限り、
その誘いに逆らわず、20分程度の昼寝をする。
目覚めは、期待とは違い、さほどスッキリしない。
ボーとしたまま、2階の自室へ階段を上がる。
机に向かい、キーボードを打ったり、
読書をしたりして、午後を過ごす。
9月に入ると、随分と早い時間から、
西日がガラス窓を通して机上を射る。
その眩しさにたまりかね、
慌ててレースのカーテンを下ろす。
そんなある日、
突然、居間の家内から大きな声が飛んできた。
「ねえ、見てごらん。夕日がすごい!」。
声に誘われ、机を離れ、
レースのカーテンを上げ、窓越しに西空を見た。
朱色に染まった薄雲と天空が輝いていた。
すっかり秋になったのか、
ひときわ夕焼けが色鮮やかだった。
その美しさを窓ガラス越しに見るだけにしておけなかった。
急いで階段を降り、外へ出た。
自宅前の通りまで出ると、
空は一面の大夕焼けだった。
家内も遅れて通りまで出てきた。
会話のないまま並んで、
その美しさにしばらく見とれた。
その時、ご近所のご主人がご自宅の駐車場に車を止めた。
いつもより早い帰宅のようだった。
2人並んで、通りに立つ私たちが気になったらしい。
わざわざ声をかけてきた。
「どうしたんですか。何かあったんですか?」。
「あまりにも夕焼けが素敵なので、見てました!」。
するとご主人は、驚いたように「エ、エェッ!」と、
西空に視線をむけた。
そして、つぶやいた。
「忙しさに、ついつい忘れていました。
すごく綺麗ですね。ありがとうございます」。
「私たちも現職の頃は、夕日を見る余裕もなく、
毎日走り続けてました。仕方ないですよ」。
「そうですか。同じですか」。
ご主人は少し寂しげな表情を浮かべた後、
足早に自宅の玄関へ向かった。
始まった! 稲刈り!