徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

ショートストーリー 「肥後春想」

2014-05-02 19:49:26 | 音楽芸能
ただよえる 桜の海に 浮かぶ城

 慶長15年(1610)春。清正は新装なった御花畑邸から大天守を望みながら想うのだった。

 天正16年(1588)に太閤殿下から肥後北半国の領主を任命され肥後に入国して23年。あれはわしがまだ27歳のときであった。あれから朝鮮の役、石田治部少輔らの謀反など、幾多の戦を乗りこえ、徳川家康公の御厚恩をもって肥後一国の主となりて10年。豊臣恩顧の筆頭格であるわしは、家康公の御気色よかれと、歌舞遊興に興じて参ったのも豊臣家の御為。泰平の世となりたる熊本城下では、わしが招いた「八幡の国一座」のかぶき踊りが盛況のようじゃ。本丸御殿の普請も目処がついた。飯田覚兵衛らを遣わした名古屋城普請に、わしもそろそろ出張らねばなるまい。あとの気がかりは秀頼様のことだけじゃ。