徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

早坂暁の世界

2025-01-08 21:35:44 | ドラマ
 今日からNHK-BSで「続 夢千代日記」の再放送が始まった。「夢千代日記」シリーズといえば、脚本家・早坂暁(はやさかあきら 2017年没)さんの代表作である。早坂さんは50年代から90年代まで、主にテレビで数々の名作ドラマを生み出したレジェンドの一人である。僕が見た早坂作品は数え切れないほどあるが、その中から特に好きな3本を選んでみた。(2017.12.18の記事を再編集したものです。

◆夢千代日記(NHK 1981年)
 日本のテレビ史上、伝説的な存在となったこのドラマシリーズは、吉永小百合さんが出演した映画・ドラマの中で僕が最も好きな作品だ。このドラマが始まった時、小百合さん35歳、匂いたつばかりの美しさ。胎内被爆者である夢千代は余命3年と宣告されている芸者置屋の女将。当時は裏日本と呼ばれた日本海の暗い冬の景色。寂れた温泉町。どうしようもないほど暗いこのドラマを見ると陰鬱な気分になるのだが、なぜか画面から目を離せない。脇を固める俳優陣がすごい。その誰もがまさに適役なのだ。超一流のスタッフとキャスト。やはり良い作品ができないわけがない。
 「夢千代日記」といえば、はる屋の芸者たちが唄い踊る「貝殻節」が忘れられない。ドラマの舞台となった兵庫県の湯村温泉辺りの民謡かと思いきや、実は「貝殻節」は、湯村温泉とは遠く離れた鳥取県沿岸の漁夫の作業歌として歌われ始めた民謡だという。
 「続・夢千代日記」「新・夢千代日記」とシリーズを重ねるごとに、このドラマの評価は高まり、早坂さんの代表作となった。

◆田舎刑事・時間よ、とまれ(テレビ朝日 1977年)
 渥美清の田舎刑事シリーズの1本で、僕はテレビドラマ史上、傑作中の傑作だと思っている。このエピソードで小林桂樹さんが演じたのは殺人犯である過去を消し、別人として有力者に成り上がった男の役だった。渥美清さんとの鬼気迫る対決が印象に残るが、普段は人のよいサラリーマンや人格者的な役どころが多い小林桂樹さんが、それまでのイメージを払拭するような快演だった。早坂さんの脚本は、まるで松本清張を思わせる迫力があった。

◆山頭火・何でこんなに淋しい風ふく(NHK 1989年)
 フランキー堺さんが種田山頭火を熱演しているが、これはもともと早坂暁さんが、渥美清さんの主演を想定して書いた脚本。諸事情で渥美清さんは出演できなかったが、本人は並々ならぬ意欲を見せていたという。山頭火が一時、堂守を務めていた植木町味取の味取観音堂がある瑞泉禅寺に渥美さんがフラリと訪ねて来たことがあるという。おそらくこのドラマのロケハンだったのだろう。瑞泉禅寺がご実家の民謡三味線・本條秀美さんから聞いたお話だ。