5歳の時、両親とともに長崎からイギリスへ渡ったカズオ・イシグロの日本観は、小津安二郎監督や成瀬巳喜男監督らの、主に1950年代の日本映画から形成されたという。あるニュースに作品名もあげていて、小津安二郎監督の「晩秋」とあったが、これは「晩春」か「麦秋」の誤りだろう。具体的にあげられている下記の作品は、いずれも海外で高い評価を受けていて、今でも多くのファンを持つ映画であって、カズオ・イシグロが日本人の血を引いているからということではないと思う。
◆東京物語
世界映画史でもトップクラスに評価されている小津安二郎監督の代表作。老夫婦と都会で懸命に生きている子どもたちの気持が、微妙にすれ違う様を描く。戦後日本の家族関係の変化が見てとれる。出演は笠智衆、原節子、東山千栄子、杉村春子、香川京子など。
◆晩春
これも小津安二郎監督の作品で海外でも高い評価を受けている。ずっと二人で暮らしてきた父と娘が、娘の結婚を迎える微妙な心の動きをほのぼのと描く。出演は笠智衆、原節子、杉村春子など。
◆浮雲
成瀬巳喜男監督が林芙美子の同名小説を映画化。欧米で根強い人気を持つ。自堕落な男と、そうと分かっていながら別れられない女の愛と悲劇を、戦後の荒廃した社会を背景に描く。出演は高峰秀子、森雅之、岡田茉莉子など。
◆めし
成瀬巳喜男監督が、これも林芙美子の原作をもとに、倦怠期を迎え、ささいなことで諍いを繰り返し、溝を深める夫婦の姿を描く。出演は原節子、上原謙、島崎雪子、杉葉子など。