せかいいちうつくしいぼくの村/小林豊/ポプラ社/1995年初版
お父さんの手伝いで、はじめてロバのポンパーと町に果物を売りに出かけたヤモ少年。
ヤモ少年は、さくらんぼを一人で売るように言われます。
はじめは売れなかったさくらんぼも、「バグマンのさくらんぼ ちょうだい」という小さい女の子が買ってくれたことから、とぶように売れ始めます。
昔近くで果物をつくっていたというおじさんもさくらんぼを買ってくれましたが、その人には片足がありませんでした。戦争で足をなくしていたのでした。
すもももさくらんぼも全部うれて、おとうさんは儲けたお金を全部使って、子羊を一頭かいます。
村に戻ったヤモは父さんに頼んで、白い子羊にバハール(春)となずけます。
日常的な風景を描きながら、最後のページに衝撃をうけた人が多かったようです。
最後のページの作者の言葉で、この本にこめられた思いが伝わってきます。
本文には「にいさんも へいたいに なって、たたかいに いったのです」、戦争で「おかげで あしを なくしてしまってね」とある2か所が最後のページにつながります。
この絵本の読み聞かせを3年ほど前にきいたことがありました。
その後「国語教科者にでてくる物語」3年生・4年生(齋藤孝・著・ ポプラ社 2014年)を読みました。
国語教科書用では絵本とは異なる部分がありました。
絵本にはアフガニスタンという言葉はどこにもでてきませんが、教科書社版では、冒頭にアフガニスタンの美しい自然がでてきます。
絵本では戦争にふれているのは2か所ですが、教科書版では「アフガニスタンでは、もう何年も民族どうしの戦争がつづいています。戦争は国じゅうに広がり、わか者は次つぎと戦いに出かけていきました」
、さらにヤモ少年が、兵隊になったお兄さんに寄せる思いがでてきて、より戦争を意識させるものになっています。
教科書版では「バグマンはいいな。せかいいちうつくしいぼくの村」とつぶやく場面もあります。
ヤモ少年がさくらんぼを売る場面は、すぐに売り切れるようになっていますが、絵本ではもうすこし苦労していて、こちらのほうがリアルです。
あまり目立たないのですが、一日の流れがうまく表現されているのも特徴でしょうか。
朝早く村を出発し、遅い昼ご飯をたべ、一日の喧騒がやむまでが印象に残ります。
「町は静かで落ち着いた色につつまれました」とあるのは夕方の風景でしょう。
教科書版では、このあたりが省略されているのが残念です。
語ってみたいと思って、私家版にまとめてみました。