ふしぎなサンダル/世界むかし話 中南米/福井恵樹・訳 竹田鎮三郎・絵/ポプラ社/1979年
ネットも電話もなかった時代の情報伝達手段としてインカ王国で使われていたのが飛脚。
縄で結び目をつくった結縄で伝言をおくっていた時代。
ウアラチという飛脚は、苦しんでいるものをみると、だまって見すごすことができない男でした。
ある日、ウアラチは国境地帯で敵を食い止めているインカ軍の大将に、結縄をもっていくようにいわれ、全速力で走はじめますが、街道に沿った谷間の斜面にたおれているおばあさんをみつけ、足を折ったおばあさんを山小屋まで運んでから、もういちどはしりはじめます。
ところが、むこうからはしってくる飛脚にであい、戦争が終わったことを知ります。
さいわい、インカ軍は勝利していました。ウアラチがおばあさんを助けようとした姿をみた者が、王さまに知らせたので、王さまは、かわりのものを飛脚におくっていたのです。
ウアラチは都から追放され、あてもなくさまよいあるき、創造主バチャカマックの神殿の前に身を投げ出して助けをこいました。
すると一つの声がきこえ、都に戻るようにいわれます。そばには一足のサンダルがありました。
神殿から聞こえる声は、「サンダルをはいて、自分の望む場所をねがいさえすれば、稲光のように一瞬のうちにはこんでもらえるだろう」といいます。
やがて都に戻ったウアラチはまた王さまのところで飛脚の役目をはたします。
どんな命令をうけても、あっというまに仕事をはたしたので、たっぷり時間があり、人や動物の苦しみをいやすことに時間をつかうことができるようになります。
情報を伝えるのに、口頭や文書もありますが、口頭では秘密の保持が難しく、文書では文字と、文字を理解できることが前提になりますが、インカでは紙はあったのでしょうか。
そもそもインカ帝国には文字がなかったといいますから、天空の遺跡マチュピチュや高度の農耕や金属文化がどのようなものであったが知ることができないのは残念です。