どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

たくさんのお月さま

2019年07月05日 | 創作(外国)

 

     たくさんのお月さま/ジェームズ・サーバー・作 ルイス・スロボドギン・絵 中川千尋・訳/徳間書店/2019年

 原著は1943年の出版。日本では1949年に光吉夏弥訳で出版され、1994年に中川千尋訳で、さらに今年に幼年向けの読み物の形に直したとありました。 

 ある日、木いちごのタルトをたべすぎて、病気になった十歳のレノアひめでしたが、父君である王さまに、「なにか、ほしいものはあるかい!」と尋ねられ、お月さまがほしいと言いだします。

 お城には、かしこい家来がおおぜいるので、王さまがおのぞみのものは、いつでも、なんでも手に入ります。王さまは、賢い大臣、魔法つかい、数学の大先生に、月をとってくる方法をたずねます。ところが、みんなは、これまでの実績を長々と言い立てるだけで、結局は月は手にはいらないといいます。

 実績はきちんと一覧表になっていて、ひとつひとつ素晴らしいものばかり。この一覧表をみるだけで、いかに不可能を可能にしたものかがわかります。(ユーモアもあって楽しいですよ)

 しかし、月が手に入れられないと悲しんだ王さまは、道化師をよび、リュートでせめて悲しい曲をひくようにいいます。

 道化師は、月までの距離、大きさの答えが、大臣、魔法使い、数学の大先生でまちまちなことを聞いて「みなさんかしこいかたばかりです。だから、たぶん、みなさん正しいのでしょう。みなさんが正しいとなれば 月というのは、ひとりひとりがかんがえるとおりの大きさで、また、ひとりひとりがかんがえるだけ遠いということになります。とすれば、レノアひめが、月をどのくらい大きく、どのくらい遠いとおかんがえなのかを、うかがわなければなりませんね」と、おひめさまのところへ。

 おひめさまのいう月は、おやゆびのつめより、ちょっと小さいくらい、大きな木のてっぺんくらいのところにある、金でできている と聞いた道化師は、金細工師に小さくてまるい金の月を作らせ、金の鎖をつけると、おひめさまのもとへ。するとおひめさまの病気もすっかりよくなってしまいます。

 しかし、ここからが問題です。夜になればまた月がかがやきます。

 王さまは、またレノアひめが、病気になるのではないか心配し、空にかがやく月を、レノアひめにみせてはならないと、もういちど大臣、魔法つかい、数学の大先生に相談します。

 けれども黒めがねや黒いビロードの幕で城をおおう、花火をやすみなく打ち上げるという方法を提案され、王さまはかんかんにおこりだし、とんだりはねたりします。

 ここで道化師は、レノアひめが月のことをよくごぞんじと、なぜまた空に月がかがやいているか たずねます。

 するとレノアひめの答えは?

 大人の固定観念を、あざやかに打ち破る結末がまっています。
 
 「月がほしい」といわれて、空にある月をもってくるというのは大人の発想。子どもがどうかんがえているか知ろうともしない大人を皮肉っているのかも知れません。