におい山脈/椋鳩十・作 梶山俊夫・絵/復刊ドットコム/2019年
1972年にあすなろ書房から発行されていますが、2019年に復刊ドットコムから発行されているものをみました。
初版からほぼ50年。当時日本は高度経済成長の時代。一方公害やゴミ問題が深刻化していました。
日本ではゴミ問題は収束したようにみえますが、いま海洋のプラスチックごみが、世界的に問題になっています。 日本のプラスチックゴミも全部がリサイクルされるわけではなく、中国が輸入をやめ、ベトナム、タイ、マレーシア、台湾などに輸出されていといいます。
生活の利便性が、一方では環境問題をひきおこす図式は変わりません。
動物たちはたいへんこまっていました。人間たちが、なんの相談もなく、山をきりくずし、団地や、工場を造り、ダムも作ったので、住むところも食べ物もなくなってきました。
このままでは、死に絶えてしまかもしれないと、動物たちは地球会議を開くことにしました。
三日三晩さけびあい、動物たちは人間の嫌いなゴミを集めて、山を作ることにしました。
地球上の動物たちがゴミあつめにかかったので、街も海岸も、きれいになり、あっという間にゴミはひとつもなくなります。
ところが思い切って捨てても、あっという間にきれいになるならと考えて、人間は前にもましてどんどんゴミを捨てます。それでも翌朝になるとゴミはきれいにかたずけられています。
「こんな うまいはなしはない。すてろ!すてろ!、どんどんすてろ!」
ある朝、人間がずっとむこうに空高くそびえているものを発見します。ゴミ山脈でした。
ゴミ山脈は北海道から沖縄まで。インドからロシアまで。ヨーロッパ大陸にもいくつものゴミ山脈が。
その山脈をめざして人間を悩ましていたゴキブリやネズミがうつっていきます。そのあとをおってトンビもキンバエも、カラスもクソバチも、はたけあらしのイノシシもタヌキもです。
いいことだらけのようでしたが・・・。
ところがゴミ山脈から、あたまがいたくなるようないやな、においが流れてくるのです。
人間は、飛行機を飛ばし地球を取り巻く山脈に香水をまきちらしてしのぎますが、今度はゴミ山脈のなかからメタンガスが外にでようと暴れはじめます。
はなもねじれるほどのくささに、動物たちもたまりません。
人間は、おばけみたいな巨大なブルドーザーで山脈をけずりとり海の中に投げ込みます。
日本海もゴミでうずめられ、ロシアと中国と陸続きになり、大西洋もなくなってヨーロッパとアメリカはどこでも自動車でいけるようなりました。
いやなにおいもなくなって、また便利ですみよいところになったと思ったら、今度は海が出口を求めて、陸地めがけておしよせ、地球の陸地をみんなのみ込んでしまいました。
こんななかでも地上に住むことの できた人たちがいました。それは、文明に追いまくられ 山の上へと上へと、のぼって ほんとに ひそやかに 自然と ともに住んでいたチベットの人々や アンデスのインディオのような人々だったのです。
楽しく読めるという絵本ではありませんが、ゴミ山脈のにおいに、百万匹のイタチやスカンクが立ち向かうようすもコミカルにえがかれています。
おしまいに、先住民によせる椋鳩十(1905-1987)のやさしい思いが、印象に残りました。