どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

ぼうさんになった大どろぼう・新潟

2023年03月02日 | 昔話(北信越)

        新潟のむかし話/新潟県小学校図書館協議会編/日本標準/1976年

 

 普通の人の三倍も早く走れる足を持ち、どんなに頑丈な錠でも、釘一本であける”耳しろ”という大どろぼう。盗んだ金や宝物をたまに出して、にこにこ楽しんでいた。盗みだけでなく、人に怪我をさせたり、命を奪くことまで。

 そんな”耳しろ”が、この地域で一番大きな小倉の寺で、和尚が説教する日に、説教を聞きにくる中に大金持ちもいるに違いないと、お寺の縁の下にもぐりこんで、みんなが帰るのをまっていた。

 ところが、和尚の説教の声が、ひとりでに耳に入ってくる。生まれて初めての説教だったので、いちのまにか耳を傾けて、じっと聞き入ってしまった。ありがたい説教を聞いているうちに、いつのまにか ぼろっ ぽろっと涙が流れてきた。説教がおわると、”耳しろ”は、和尚さんの前で手をつき、今日から心を入れ替えるから、お弟子にしてくれるよう 一生懸命頼みこみます。

 すっかり心を入れかえて、お寺の掃き掃除や拭き掃除はもちろんのこと、夜もろくに寝ないで、一心不乱になって修行した”耳しろ”。

 やがて、和尚さんのかわりに、あっちこっちへ、説教して歩くえらい坊さんになった”耳しろ”が、ある庄屋に 泊めてもらうことになった。その庄屋から、「どんな修行をしたか話をしてくれ」といわれ、うそをついては申し訳ないと、”耳しろ”という大どろぼうであったが、心を入れかえて、坊さんになったことを正直に話した。それを聞いた庄屋は顔色が変わるほどたまげてしまった。というのも、庄屋の親御さんが、越後の国を旅しているとき、この”耳しろ”に、金ばかりでなく、命までとられていたのです。そして、ふしぎなことに、この日がちょうど、親御さんの殺された日であった。

 庄屋さんは、殺された親の引き合わせにちげえねえと、寝ている”耳しろ”を 「親のかたき!」と、ひと思いに刺し殺そうとした。ところが、耳しろの口の中から、ちいさい仏さまが、「ポイッ、ポイッ、ポイッ、ポイッ」と、飛び出してきて、耳しろのまわりをすっかり囲んでしまった。たまげた庄屋は、腰を抜かし、かえって耳しろにあやまって、弟子にしてもらい、親をとむらうことに。

 

 人情もののようにも思える昔話。昔話によくある援助者はでてきません。

 『歎異抄』にある「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」が、浮かびました。