山形のむかし話/山形とんと昔の会・山形県国語教育研究会共編/日本標準/1978年
最上川のほとりにすんでいたげんないは。背がでっかく、頑丈で力こぶも石みたいにもりあがっていたど。
夜、せんべい布団にくるまって、壁の隙間からちらちらと光る星を眺めていたら、川のほうでコトラコトラと音がしたど。そっとおきて戸を少し開けてのぞくと、黒い影。よくみるとカッパ。げんないはしらんぷりしてねていたど。
つぎの晩も、つぎの晩も、カッパがあがってきて、すぐそばまでくるようになり、雨降りの真っ暗な晩、カッパはびしょびしょにぬれた手で、げんないのしりごを、ひょえらっとおさえた。「つめでえ」と、げんないがおきあがると、カッパは、たたったあとは知って、チャポランと川の中にしずんでいった。
「カッパのやつ、おらのしりごをねらっていやがる」と、のんきなげんないも、腕を組んで考えたど。
つぎの晩、げんないは、しりごをわざとふとんからつんだしてねていたど。ねむったふりをしていると、カッパが、またこっそりもぐりこんできて、げんないのしりごめがけて、がぶらっとかぶりついたど。
ガリッ ガリガリ ガリガリ
なんとかたいこと固いこと。カッパの歯が、ぽろりぽろりと折れてしまったど。げんないは、寝る前に、大きな鉄瓶の蓋を、しりごにはめ込んでおいたもんで、かたいはず。カッパは 泣き泣き川へ沈んで、二度と上がってこなかったど。
この話で楽しいのは、結末の部分。
なに、カッパはどんな声でないたかって。さて、なんとないたもんだべな。キャッ キャッてなくのは、サルだし、カオカオッってなくのはカラスだし、やっぱりげんないにきいてみないとわからないな。