お月さまになりたい/三木卓・作 及川賢治・絵/偕成社/2022年
ぼくは、学校のかえりに、へんな犬にであいました。じぶんがなりたいと思えば、なりたいものになれる犬でした。
「真っ白い犬なら、かってやるんだけど」というと、白と茶のぶちから、真っ白へ。
犬は、「とてもすばらしいところへ、いきませんか」と、ぼくに話しかけました。ぼくがいってみようかとおもったとき、犬は二日も食べていないからと、まずはほねつきの肉をおねだりです。
それから、風見犬になって、風向きを確認すると、気球になって、ぼくといっしょに空の旅。海に出て、崖の上に着陸すると、「もっといいところに いきましょう」といいだしました。
なんにでもなれるといったが、まだうまくなれないものがお月さまという犬は、ぼくに いっしょにいくよう誘います。いけないというぼくを残し、犬は白い海鳥になると、空をのぼっていきます。
うまくいけば、月が二つになっていたはずですが、まってもまっても犬のお月さまはできません。しばらくたってから、ゆっくりと落ちてくるものが見え、だんだん大きくなると、それは落下傘でした。犬が、お月さまになりそこない、はずかしくて落下傘になってかえってきたのです。
「ぼくは、お月さまよりも、犬のきみのほうが好きなんだ。はやく犬にもどってよ。」というと、「くしゅん」と、かわいいくしゃみをすると、真っ白い犬にかわりました。
「さ、ぼくんちへかえろうよ。」と、ぼくは、つよくだきしめてやりました。
犬とぼくのやりとりが とてもいい感じ。
「一万円札、グレープフルーツになってよ」というと、犬は、ぼくの下心を見抜きます。
お互いに焼きもちを焼いたり、ちょっと意地悪したり、頑固に主張をかえない相手をおもいやったり、なんだかんだと、相手のことを思う気持ちが優しい。
自分のためだけに使う「魔法」です。
1972年にあかね書房から刊行された「おつきさまになりたい」の文章に修正を加え、新たに絵を描き下ろしたものと ありました。