山形のむかし話/山形とんと昔の会・山形県国語教育研究会共編/日本標準/1978年
頭に柿の木がなる昔話があるなら、目に木が生えてもおかしくありません。タイトルは「ひたい」ですが、目に木が生える話。
カモ取りのじいさまが、沼でカモをいっぱいとり、腰の帯にはさんでいると、足を滑らせたひょうしに、バタバタとカモが羽ばたいて、空中高くとんでしまった。そうしているうちに、元気なカモの一羽が、帯を抜けてとんでしまったもんだから、そのうち一羽ぬけ、三羽ぬけて帯がゆるみ、沼めがけてまっさかさに落ちてしまった。ピシャっと落ちたひょうしに、二つの目ん玉、ぺろりと飛び出してしまった。あちこちさがし、目を入れると、一つは見えたが、もう一つはトチの実。
翌朝、目さましてみると、目から大きなトチの木が生えていた。そのトチの木に実がなり、カモとりに行くには、トチの木がじゃま。そこで町へトチの実を売りに行くと、これがみんな売れてしまった。次の年にも 「トチの実はいらねが トチ トチ」とふれまわると、じゃまだから、トチの木切らなければ、町へ来るなといわれ、トチの木を切るが、こんどは 薪にして売り歩いた。
売るものがなくなったと思っていると、木の切り株にナメコが生えてきた。ナメコもよく売れ、村にもどる途中、雨が降ってきた。家で、ばさまのだしたお茶を飲んでいると、頭の上でゴチャゴチャ音がする。ばさまが見ると、頭のくぼんだところに雨水がたまって、そこにフナが 泳いでいた。「こりゃ、ええ。町さいって、フナを売ってくるべ」と、こんどは、フナを売りに町へ。
このあと、どうなったかは?
となりのじさまも、おなじように、空中から落ちて、ようやく探した目を、ひとつさかさに入れてしまった。そしたら、さかさにいれた目ん玉で、体の中みな見える。「なるほど、頭が痛いというのは、ここがわるいからだべ。はらいたいというのは、これがわるいからだべ」と、体の中のわるいところが、みな見えるもんだから、「はらいたには、ドクダミを湯に入れて、それを飲めば治るし、けがしたらここがはれるから、この薬をはりつければいい。」と、体のわるい人に教えたもんだから、この一番の名医になったんだと。
現代医学では、体の状態を検査するというのは治療の出発点。昔の人も、体の中を見てみたいと思ったかどうか。