ぶたばんのおうじ/アンデルセン・作 ビョーン・ウインブラード・絵 やまのうち きよこ・訳/ほるぷ出版/1978年
貧しい王子が、皇帝のお姫さまに二つの素敵な贈り物をそえて結婚を申し込みました。
一つは五年に一度たった一輪だけ咲くかおりのいいバラ。もう一つは美しい声で鳴くナイチンゲール。しかし、お姫さまは、作りものでないほんもののバラとほんもののナイチンゲールがどうしても気にいりません。
あきらめきれない王子は顔にどろやすみをぬり、帽子をかぶってお城に行き、ぶたばんになります。ぶたばんの王子は豚小屋のとなりのおんぼろ部屋で暮らしはじめ、一日かけて、しゃれた鍋をつくりました。
その鍋は、中身が煮えるとまわりの鈴がなって歌をかなで、おまけにこの鍋のゆげにゆびをかざすと、町中の家のごちそうのにおいをかぎわけるというもの。散歩をしていたお姫さまは鍋のすずが歌うのを聞いて、それをほしがりますが、ぶたばんの王子は、お姫さまのキス10回と引き換えでゆずるといます。おひめさまは女官たちに隠させて、キス10回と引き換えにその鍋を手に入れます。
次にぶたばんの王子がつくったのは、振ると踊りの曲が聞こえるガラガラ。お姫さまはそれも欲しくなりますが、王子は、お姫さまのキス100回と引き換えだと言う。お姫さまはなんとか10回のキスと女官たちのキスとでゆずりうけようとしますが、王子はどうして受け入れません。
しぶしぶ前のように女官たちに隠させてキスをしはじめ、そして86回目のキスの時、皇帝がそれを見咎めてふたりを国から追い出します。お姫さまは、素敵な王子をむかいいれておけばこんなことになかったと反省します。そこに、ぶたばんの王子が、どろやすみをおとし、ぼろをぬいで、王子のすがたになってあらわれて言いいます。
「あなたは礼儀を尽くした王子にあおうともしなかった。バラやナイチンゲールのねうちもわからなかった。音の出る機械を手に入れるためなら、誰とでもキスする人なのだ。思い知るがよい」。
そして王子は自分の国に入り、戸を閉めてかんぬきをおろしてしました。
一人残されたお姫さまは 歌いだします。
「いとしの アウグスチン なにもかにも どこかへ いっちゃった きえちゃった」
ハッピーエンドではなく、お姫さまをつきはなして物語が終わりますが、このお姫さま、その後どうしたのか気になるところ。
本当の値打ちはどのようなものか まわりの人は何も教えず、皇帝もまた父親の役割を果たしもせず、追い出してしまいます。
王子も5年に一度しか咲かないバラやナイチンゲールの素晴らしい歌の本当の価値をお姫さまがわからなかった時点であきらめればよかったのに、お姫さまをまどわすようなものを作りだし、最後にさよならというのも酷なところ。
女官や皇帝がとてもコミカルに描かれているのは、喜劇としたかったのでしょうか。