ねんどの神さま/那須 正幹・作 武田 美穂・絵/ポプラ社/1992年
たまたまはじめてはいった図書館で、真っ先に目についた絵本ですが、なんとも深く重くて衝撃的でした。
過去に苦い経験をしていても、いつのまにか忘れて立ち位置が変わってしまう人間の業に、思いを巡らし、こうした人間が多いと思わざるをえません。
1996年身長100mを超える巨大な怪物が、とある山の村から東京を目指します。
自衛隊が出動し、ロケット砲や化学兵器、さらには核まで使われますが、怪物はそのまま平気で東京にむかいます。
怪物にはどうしても会いたい人間がいたのです。やがて東京のビルの一室に目指す男を発見します。
その男は、兵器会社の社長でした。
社長は怪物を見たとき、どこかで記憶に残っているような感覚におそわれます。
殺されることを覚悟していた社長でしたが、怪物は言います。
「ぼくは、ケンちゃんのつくった神さまなんだよ。ぼくにケンちゃんを殺せるわけないじゃないか。ぼくはね、ケンちゃんにおしえてもらいたくって、やってきたんだよ。ねえ、ケンちゃん。もう、ぼくは、いなくなったほうがいいのかなあ。ケンちゃんは、むかしみたいに、戦争がきらいじゃないみたいだからね。」
社長は
「わたしは、子どものころとかわりないよ。戦争をにくむ気もちは、いまだにもっている。ただね、戦争というやつは、にくんでいるだけじゃあなくならない。かえって強力な兵器で武装していたほうが、よその国から戦争をしかけられることもない。つまり平和をたもつことができるのさ。わたしの事業は、平和のための事業なんだよ」
社長は、怪物に土下座をして頼み込み、小さなねんど細工に戻った怪物を破壊してしまいます。
「これで、いい。この数十年、心のすみにひっかかっていたトゲのようなものが、きれいになくなってしまった。あとは、もう、自分の思うように事業をすすめることができる。」
この社長は、1946年山の村の小学校の授業でねんどの神さまを作りました。
「戦争をおこしたり、戦争で金もうけするような、わるいやつをやっつけます」という願いを込めたものでした。
父親は中国で戦死し、母親や兄弟は空襲で死んでしまい、疎開していて助かったのが健一でした。
このねんどの神さまは、廃校になった学校の倉庫に長く眠っていました。
それから50年後、ねんどの神さまは、突然巨大な怪物になって、自分をつくった健一にあいにいったのです。
ところが、健一は兵器会社の社長で、「戦争で金もうけする」側になっていたのです。今、平然と声高にいわれようとする理屈です。
両親、兄弟を戦争で失い、戦争を心の底から憎んでいた少年が、戦争を歓迎する人間になっていたのは皮肉です。
作者の那須正幹のものははじめて。とおもったら、「ずいとん先生と化けの玉」 絵:長谷川 義史さん絵(童心社)の作者も那須さんでした。広島の出身といいます。
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