熊本のむかし話/熊本県小学校教育研究会国語部会編/日本標準/1973年
吾市は畑仕事でどろだらけになった馬を、いつも川口の白州できれいに洗っていました。
ある日、馬が強い力で、ずるずると海のなかに引きずりこまれてしまいます。あっというまのことでした。
吾市はわけを知りたいと、父親や村の人々に聞いてみますが、さっぱりわかりません。何日かして、また一頭の馬が海のなかに引きずりこまれました。
なんとかしてさがしだして、馬のかたきをとろうと、海の上にはうように枝をつきだした松の木にのぼって、海の中を見張りました。何日かなにごともなくおこることがなく過ぎました。もうちょっと頑張ってみようと、海の中を見ていると、きれいにすんだ海の底が、むくむくともりあがって、なにかうねるものがうつりました。よくみるとそれは大きなたこ。 波打ち際では一人の村人が馬をあらっていました。吾市が声をかける間もなく、大たこは、馬を海のなかにのみこまれてしまいました。
怪物の正体がわかった吾市は、思案に思案を重ね、かじ屋さんにいき、普通の馬と同じ大きさの鉄でできた馬をつくってもらいました。鉄で作った馬の腹の中は空洞にし、耳、鼻、口は少し開き加減にし、腹と空洞とつうじるようにしました。
鉄の馬を白州に運ぶと、馬の腹の中には火のついた木炭がつぎつぎにつめこまれ、たこがでてくるのをまちました。三度目の炭をつぎたすと、たこが馬にきずき、海のなかに引き込もうとします。ところが相手は真っ赤に焼けた馬でしたからたまりません。異様に焼けただれる匂いが、あたり一面にただよったかとおもうと、大たこは、黒焦げになって死んでしまいました。
それからは、村の人たちも安心して、また楽しく馬洗いができるようになりました。
馬を海にひきこむのは、カッパが相場ですが、ここでは”たこ”です。
この話は、本渡市が舞台ですが、2007年に牛深市、天草郡8町と新設合併して天草市が誕生しています。