アクチュアル・ロマネスク

2024-12-28 22:05:17 | 八王子 街を見晴らす家


ぼくが建築家を志したキッカケは、写真家 田沼武能の作品集「カタルニア・ロマネスク」との出会いでした。
スペインのカタルニア地方に散在するロマネスク様式の古い礼拝堂と、それらの礼拝堂を中心に生きる集落の人々を写した写真集です。
以来、この写真集はぼくにとって北極星のような存在として、何十年もぼくの人生の中心にありました。

ちょうど1年前、思いがけぬことから、田沼武能さんのご親族と、そして「カタルニア・ロマネスク」の編集者の方とお会いする機会に恵まれました。
田沼武能さんはその1年前に他界されたばかりで、その巡り合わせに、なにか運命的なものも感じました。

写真集「カタルニア・ロマネスク」への積年の思いをうまく伝えようにも、思いが大きすぎてなかなか言葉にならずに口惜しい気持ちになりました。
でもそれから時間が経ち、「カタルニア・ロマネスク」がぼくにとって何であったのか、整理できるようになってきました。
そしてそれは、住宅を設計するうえでの羅針盤として静かにぼくを導いてくれているように思います。

この冬にできあがる、ひとつの小さな家。
この家にも、ぼくにとっての「カタルニア・ロマネスク」が生きています。
これまで多くの住宅をつくってきましたが、ひとつ意図的に変化が表れました。
より簡素で素朴で、家のなかの造りひとつひとつの表現が、愛おしく感じられるような家。
新しいけれども、古くからあるようで、住む人を見守ってくれるような優しさのある家。
学術的な言い方からは程遠いけれども、そういったことを本気で考えて実現できれば、それは意義のあることだと思うのです。
何百年もの遥か昔に造られたロマネスクの礼拝堂が、古びてなお、現代に生きるぼくたちの心に響くように。
そんな願いを込めながら取り組んできた家が、またひとつできあがるのが嬉しくてなりません。
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シンプルに暮らす小さな家

2024-12-20 23:20:56 | 


エクスナレッジから、ぼくのアトリエで設計した住宅2題を特集いただいた本「シンプルに暮らす小さな家」が出版されました。
そして、表紙にもしていただきました。

取り上げていただいた住宅は「大磯の平屋」と「透かし庭の家」です。
ロケーションも家族構成もまったく異なるふたつの住宅ですが、根本にある考え方は共通していることも多いと思います。
住宅を設計するときに考えているそれらのことを、巻末コラムとして執筆を担当しました。
写真もこれまで撮りためてきたものから選んで掲載いただきました。すべて自分で撮った素人写真ですが、設計した人間の目線、という意味では、プロの写真家とは異なる雰囲気になっていていいのかもしれません。

全体としてしっとりとした趣きのある編集の本です。
ぼく自身にとっても、愛着のある本になりました。
ぜひご覧いただけますと嬉しく思います。

エクスナレッジ「シンプルに暮らす小さな家」



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八王子のロマネスク

2024-11-17 17:44:28 | 八王子 街を見晴らす家


八王子で建てている小さな家。真四角の間取りのシンプルな家です。
コストも考慮しながら、必要なだけの広さにとどめながらも、暮らしに必要な収納などは、建物と一体となるようにデザインし、工事で造りました。

家一軒まるごと、大工さんひとりで造る。手順を考えながら黙々と作業をし、そしてついに大工さんの役目が終わりました。
根気よく丁寧に造ってくださる姿には、本当に敬意しかありません。
仕事の終わりにあたりご挨拶をし、丁寧な仕事への感謝の言葉を述べつつ、またいつか別の現場でもお願いしますね、とお伝えしました。
このような良い現場に巡り合えるのは幸せです。

大工さんの仕事が終わり、塗装などの内装の仕事が始まる前の、束の間の静かな現場の時間。あれこれ思案そんな時間を一人で過ごすのが好きです。
塗装の職人さんに、色の塗分けやニュアンスなど、設計の意図を伝え、その通りに仕上がったらどのようになるだろう、としばし現場で想像を巡らせました。
楽しみでもあり、ちょっとした緊張感もあり。
多くの住宅を造ってきたとはいえ、自分が出した結論には、自信を持ちつつも緊張もやはりあります。

優しい暮らしの場となってくれますように。
小さく簡素な佇まいが、きっとそんなふうになるよ、と後押ししてくれているようで、離れがたい心地よさがありました。
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ルドンの色

2024-11-12 21:55:53 | アート・デザイン・建築


このブログにたびたび登場するオディロン・ルドンの絵画。
19世紀後半から20世紀初旬にかけて生きた画家ルドンには、以前からずっと憧れをもっていました。
ぼく自身が、20世紀末に多感な時期を過ごし、「世紀末芸術」に深い関心があったことも、関係があるのだと思います。

絶望的で退廃的な、モノクロームの画風。
これだけ聞くと見るのもイヤになりそうですが、その画風に漂う静けさや孤独、そして時に表れる愛嬌は、深く心に沁み込んできます。

ルドンは50歳になってから、大きく画風が変わりました。
弾けるような鮮やかな色彩のパステル画。
なぜそのように画風が変わったのか、いろいろな説があります。
晩年になってからの長男の誕生、過去との決別・・・
いずれにしても前向きなことだったようです。

ぼくも今年ついに50歳になりました。
建築家人生としてはまだ折り返し地点です。(建築家は40代にしてまだ若手と言われる、スロースタートの職業なのです!)
ぼくもルドンのように、新たな作風の展開を楽しみたいと思います。

胸の内に思い描くテーマは、ロマネスク性、ということ。
このテーマをより自覚的に、設計のなかに沁み込ませ、それがやがて、その建物で過ごす人々にとって「寄る辺」となることを願いたいのです。


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ベイウィンドウのある部屋

2024-10-25 23:16:29 | 梅ヶ丘の家


家のなかに、寄る辺となるような居場所があるといいなあと思っています。
「梅ヶ丘の家」のリビングには、そんなイメージの場所があります。

ベイウィンドウのある窓辺がほしい。クライアントからそんな話があったのは、設計も終盤に差し掛かっていた頃のことでした。
このリビングは中庭に面していて、もともとの設計ではメインの窓は中庭に大きく開かれたようなデザインで考えていました。
でもある時、クライアントから伝えられたのは、かつて海外で暮らしていたときに過ごした家や、地域の家に備わっていた、弓なりに窓が連なり、ベンチが設えられたベイウィンドウのある窓辺のイメージでした。
そこからデザインを練り直してできあがったのが、この窓辺の空間です。

クラシックな雰囲気のインテリアデザインのなかに、ベイウィンドウの窓辺が立ち現れ、どこか象徴的な趣きをまとった佇まいになりました。そしてその窓からは静かに光が降り注いでいます。
この後、中庭にはシンボルツリーが植えられ、ベイウィンドウの大きな窓から緑が見えることになります。

このインテリアは、クライアントの思い出をきっかけにしてできあがったものです。

記憶を拠りどころにして居場所をつくる。

不思議な存在感と、離れがたい引力をもった場所になりました。
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