背景の壁

2025-02-19 21:22:05 | 北茨城の家


北茨城の自然豊かな山あいの土地に建てる、新しい家の計画。
まわりを見渡せば、長きにわたって手入れされてきた実家の庭があり、その一方で、海の方につながっていく風景の広がりがあります。
そのような自然豊かな環境を目の前にすると、新しい家ではあるけれども、風景に寄り添うような家をつくりたくなります。

家の中の居場所ごとに、風景が特別に感じられるようにしたいと考えました。
ですから、すべてを見渡す大きな窓をつくるというよりも、窓の位置や大きさを吟味して、そこにしかない風景との交歓をたのしめるような場所をつくりたかったのです。



窓のまわりの壁は余白としてゆったりと広がり、左官塗で仕上げられる予定です。
窓から入る自然光に照らされ、左官塗の壁のざらりとした質感が、美しい光と陰影のマチエールをつくってくれることでしょう。
置かれた家具や食器もまた、趣のある雰囲気に感じられるといいな。

そんな雰囲気に似つかわしいデスクコーナーの家具はどんなふうに作ろう。
建て主のMさんとそんなことを相談していると、こんな感じはどうですか、とMさんがデスクの小さな模型を作ってくれました。
Mさんは額装づくりの仕事をされていて、こういう小さな模型は短時間でチョチョイのチョイで作ってしまうのです。
実際の素材で作られた模型を、実際の床フローリングの材料や、左官塗のサンプルと合わせてみると、質感がイキイキと感じられます。



この左官塗の壁には、Mさんによって額装された絵や写真が飾られることでしょう。ゆったりと広がる壁は、額装の背景としてもうってつけです。
そして、額装の木の質感を引き立てるように、壁の色は少しグレーに。

確かな素材感のあるものだけを使って、家をつくる。
そんな潔さがもたらすであろう美しさと居心地の良さに、思いを馳せます。





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大は小を兼ねる?

2025-02-09 21:36:37 | 桜坂の家


最近、取り組んでいる実施設計が佳境になって大忙し。
作業的にどんどんとこなしていければよいのですが、デザインの肝になるところはしばし沈思黙考。
そんなふうにして時間がかかってしまいます。

たとえば写真の部屋の窓の位置や大きさを考えていたときのこと。
この部屋は寝室で、正面の壁には、その気になれば壁いっぱいに窓を大きく開けることもできました。
ですが寝室なので、腰壁が高いぐらいのほうが落ち着くかな、座っていても外から見えないぐらいの高さに。
明るすぎず、でも部屋全体にふんわりと明るさが広がるといいな、と思い、障子で自然光を和らげて。
窓の外には、道向かいに立つ古い保存樹木が見えるはず。障子を開けるたびに、パッと新鮮に樹木が見えるといいな。



そんなことを考えながらできあがった窓辺のデザインが、こんな感じ。
窓は大きくしておけばよい、明るければ明るいほどよい、という考え方もあるかもしれませんが、そこで過ごすことを考えて、ちょうどよい心地よい在り方を考えること。
そうすることで、そのようにしなければ生まれない風情が、生まれる。
大は小を兼ねる、ということはないと思うのです。
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古びることを愉しむ

2025-01-16 21:17:55 | 八王子 街を見晴らす家


旅行で訪れるとある街で、心惹かれる場所は少なからず、ちょっと古びたレトロ感ある場所。
時間を味方につけて古色を帯びた物や場所には、不思議と気持ちが動きます。
なんだかほっこり安心感があるのでしょうか。
たんに古ければ何でもいいということではありませんが、古びたものには、新しいものにはない存在感がある、ということかもしれません。

そんなようなことを、画家・有元利夫はよく文章に残していました。そして有元の画風はまさにそれを体現したもので、新しいキャンパスに描いては汚し、かすれさせ、積極的に古びさせていたようです。

古びることを、愉しむ。
そんな感覚を持ちながらモノづくり、家づくりをできるのは、ぼくにとっては喜びです。
八王子にできあがったこの住宅も、そんな古びる愉しみ満載です。

上の写真は、玄関の一コマ。玄関ドアの脇にはレトロな風合いのガラスがはまり、その表面の独特の凹凸が直射日光に感応してキラキラと輝きます。
その傍らには木で一体的に作られた郵便ポストがあって、外から郵便物を入れて、中から取り出せるという仕掛け。
木でできたポスト箱は濃色に塗られていて、新しいけれども年季のはいった佇まい。
その箱のフタのつまみも真鍮でできていて、今は金ピカだけれども、だんだんと鈍い飴色に変色していくことでしょう。
ポスト箱の上には、ざらついた土っぽい質感のタイルがあしらわれ、棚にちょんと置かれたオブジェの背景となります。

古びていることを求め、古びるていることを愉しむようなあり方は、心に穏やかさと安心感をもたらしてくれるように思います。
そんな気分を生み出すためのデザインの心得は、雅、放胆、枯淡、稚拙、鈍、省略、不整美、無名色、無造作というような魯山人の言葉。
これらの言葉もまた、有元利夫が大切にしていたことのようです。

シャープでカッコいいデザインの、反対にあるものですね 笑

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新しくて、懐かしい家

2025-01-14 18:40:24 | 八王子 街を見晴らす家


八王子でつくってきた住宅が、もうすぐ引き渡しをむかえます。
建て主のKさんとお話しながら思い浮かべていたのは、小さくて居心地のよい小屋のような雰囲気の家のことでした。

素朴で、ちょっとレトロな感じの素材感。
おおらかな壁や屋根に守られて、
窓からは自然光が美しく入ってくる。
そうして、これからの長い暮らしを、ゆっくりと見守ってくれるような雰囲気であること。

そんなイメージを拠りどころにしながらできあがった家は、新しい家なのにどこか懐かしくて、安心感に満ちていました。






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ヒュッゲな場所

2025-01-05 17:16:31 | 経堂の家


あけましておめでとうございます。
今年も新たにいくつかの住宅ができあがる予定ですが、いつも家づくりの根本に据えているのが、「窓辺を楽しく美しく」ということ。
でも、その設計手法にルールがあるわけではありません。ロケーションや間取りによっても変化します。建て主さんの好みも採り入れながら、家ごとに新しいデザインを模索します。
そんなふうにして、いつも新しいデザインに出会うのが、家づくりの楽しいところでもありますね。

写真の「ロッジアのある家」では、建て主が好む北欧デザインの家具や照明が調和するように、窓辺の造作デザインを考えました。
ダイニングテーブルが寄り添う居心地のよいコーナーとなるように、窓枠はすべて木材を用いるように設計しました。
造ってくださった大工さんにはご苦労をお掛けしたけれど、木製の窓辺は見た目にも優しく、寄る辺になる雰囲気が出ますね。



窓辺に沿ってカウンターを設けられていて、お気に入りの小物を飾れるようになっています。
窓からは庭の緑が見えて、
柔らかな自然光がじんわりと室内を満たし、
ゆっくりと時間が流れていきます。

世界にただひとつの、家族のためだけのちょうどよいサイズの、窓辺の居場所。
そういう場所が、ヒュッゲ=ほっこりな雰囲気になるのかなあと思います。

今年も、「ヒュッゲな場所」をひとつひとつ丁寧につくっていきたいと思います。
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