八王子のロマネスク

2024-11-17 17:44:28 | 八王子 街を見晴らす家


八王子で建てている小さな家。真四角の間取りのシンプルな家です。
コストも考慮しながら、必要なだけの広さにとどめながらも、暮らしに必要な収納などは、建物と一体となるようにデザインし、工事で造りました。

家一軒まるごと、大工さんひとりで造る。手順を考えながら黙々と作業をし、そしてついに大工さんの役目が終わりました。
根気よく丁寧に造ってくださる姿には、本当に敬意しかありません。
仕事の終わりにあたりご挨拶をし、丁寧な仕事への感謝の言葉を述べつつ、またいつか別の現場でもお願いしますね、とお伝えしました。
このような良い現場に巡り合えるのは幸せです。

大工さんの仕事が終わり、塗装などの内装の仕事が始まる前の、束の間の静かな現場の時間。あれこれ思案そんな時間を一人で過ごすのが好きです。
塗装の職人さんに、色の塗分けやニュアンスなど、設計の意図を伝え、その通りに仕上がったらどのようになるだろう、としばし現場で想像を巡らせました。
楽しみでもあり、ちょっとした緊張感もあり。
多くの住宅を造ってきたとはいえ、自分が出した結論には、自信を持ちつつも緊張もやはりあります。

優しい暮らしの場となってくれますように。
小さく簡素な佇まいが、きっとそんなふうになるよ、と後押ししてくれているようで、離れがたい心地よさがありました。
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ルドンの色

2024-11-12 21:55:53 | アート・デザイン・建築


このブログにたびたび登場するオディロン・ルドンの絵画。
19世紀後半から20世紀初旬にかけて生きた画家ルドンには、以前からずっと憧れをもっていました。
ぼく自身が、20世紀末に多感な時期を過ごし、「世紀末芸術」に深い関心があったことも、関係があるのだと思います。

絶望的で退廃的な、モノクロームの画風。
これだけ聞くと見るのもイヤになりそうですが、その画風に漂う静けさや孤独、そして時に表れる愛嬌は、深く心に沁み込んできます。

ルドンは50歳になってから、大きく画風が変わりました。
弾けるような鮮やかな色彩のパステル画。
なぜそのように画風が変わったのか、いろいろな説があります。
晩年になってからの長男の誕生、過去との決別・・・
いずれにしても前向きなことだったようです。

ぼくも今年ついに50歳になりました。
建築家人生としてはまだ折り返し地点です。(建築家は40代にしてまだ若手と言われる、スロースタートの職業なのです!)
ぼくもルドンのように、新たな作風の展開を楽しみたいと思います。

胸の内に思い描くテーマは、ロマネスク性、ということ。
このテーマをより自覚的に、設計のなかに沁み込ませ、それがやがて、その建物で過ごす人々にとって「寄る辺」となることを願いたいのです。


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ベイウィンドウのある部屋

2024-10-25 23:16:29 | 梅ヶ丘の家


家のなかに、寄る辺となるような居場所があるといいなあと思っています。
「梅ヶ丘の家」のリビングには、そんなイメージの場所があります。

ベイウィンドウのある窓辺がほしい。クライアントからそんな話があったのは、設計も終盤に差し掛かっていた頃のことでした。
このリビングは中庭に面していて、もともとの設計ではメインの窓は中庭に大きく開かれたようなデザインで考えていました。
でもある時、クライアントから伝えられたのは、かつて海外で暮らしていたときに過ごした家や、地域の家に備わっていた、弓なりに窓が連なり、ベンチが設えられたベイウィンドウのある窓辺のイメージでした。
そこからデザインを練り直してできあがったのが、この窓辺の空間です。

クラシックな雰囲気のインテリアデザインのなかに、ベイウィンドウの窓辺が立ち現れ、どこか象徴的な趣きをまとった佇まいになりました。そしてその窓からは静かに光が降り注いでいます。
この後、中庭にはシンボルツリーが植えられ、ベイウィンドウの大きな窓から緑が見えることになります。

このインテリアは、クライアントの思い出をきっかけにしてできあがったものです。

記憶を拠りどころにして居場所をつくる。

不思議な存在感と、離れがたい引力をもった場所になりました。
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リッキー・リー・ジョーンズを聴きながら。

2024-10-16 23:11:07 | 旅行記


10月中旬の今の時期になると、学生時代に初めて海外旅行に行ったときのことを思い出します。
スペインとフランスへの旅。
バルセロナから入ってガウディの作品に出会い、カタルーニャ地方でロマネスク美術を浴びつつピレネー山脈越え。
くるくると回りながら走るかわいい登山電車に揺られながら国境を越え、南フランスからパリへ向かう旅。
ヘッドホンでRickie Lee Jonesの曲を聴きながら、写真以上にスケッチを描き続ける旅でした。

フランスでは建築家ル・コルビュジェが設計した作品「ロンシャンの教会」を訪れました。

光、闇、色、量感。
そんな目に見えるものを必死に目で追い、
そのなかに巨匠が込めた「時間」や「記憶」といった目に見えないものの象徴や暗喩を、必死に嗅ぎつける。
若い時だからこそ夢中でできた、純粋無垢な建築の味わい方でした。

この旅で買い求めた、ロンシャンの教会の作品集と、パリの文房具店で見つけたペンケース。
こうしたカタチあるものを通して、かつて自分が夢中になったことに想いを馳せる時間も、楽しいものです。
作品集は今でもページをめくり、ペンケースは建築現場に連れていく。
そう、過去のものではなく、僕にとってはまさに今、共にあるものなのです。
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階段の光景

2024-10-04 22:29:40 | 梅ヶ丘の家


今年の初夏にできあがった「梅ヶ丘の家」。大きな2世帯住宅で、クラシカルなイメージの住宅を、というご要望を受けて設計をした家です。
見どころも盛りだくさんなので、ぜひいろいろご紹介したいのですが、その最初の写真がこれ。

階段の光景。特に変わったところのない階段で、使っている材料も手に入りやすいものばかり。
にもかかわらず、なんともいえない趣きがあるように思います。
ちょうど家の裏側に、緑が見えるはず。そんなイメージを頼りにそっと開けた小窓。

大きな壁のなかに穿たれた、小さな窓。

うんうん、ロマネスクだ、これは! そんなことを胸に秘めながら、設計しているときから楽しみにしていた場所でした。
そして本当にロマネスクの建築のように、仄暗い空間のなかに印象的に光が差し込み、外の緑が垣間見えて。
ある意味で、建築のいちばん初源的な光景なのだと思います。

そんな光景が、ぼくはとても好きです。
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