春先に竣工した住宅「月見台の家」のお施主さんから、庭ができました・・・とのご連絡をいただき、先日お伺いしてきました。
すこし唐突な話になりますが、「家」というものについて考えるとき、床・壁・天井といったカタチあるものに最初に関心をいだくか、それとも、それらのカタチの間に挟まれた、いわば空気のようなカタチのない「場所」に関心をいただくかで、家の設計やデザインのあり方も変わってくると思います。
「月見台の家」は、まさにその後者の考え方でイメージした住宅でした。野生のリスが走り回る小高い丘の上の立地。そこから奥にぐっと引き込まれたような敷地。風が気持ちよく抜け、桜の木立が見える、ポケットのように奥まった静かな、場所。
「カタチ」ではなく、「場所」をつくりたいと思ったのです。床や壁や天井は、そんな「場所」を引き立たせる良き背景であってほしいと思いました。生活がはじまって置かれる家具や道具、植栽などは、「場所」のイメージをかたちづくる、ひとつひとつの「かけら」のようなもの。そんな「場所」の風景は、静けさと穏やかさに満ちた、そう、「ロマネスク」がもつ慎ましやかさにも似た雰囲気になるのではないかな、と思っていました。
思い描いていた「山の上のロマネスク」の家。どんな風になっているかなと、とても楽しみにしながら坂道をあがっていきました。
たどり着くと路地状の通路に、背の高い雑木が覆うように植えられていました。樹木の奥に風景が見え隠れし、奥行きのある雰囲気がでてきていました。
庭にしつらえられたベンチコーナーの板壁に促されるように、さらに、さらに奥に。
そうして玄関にはいると、高さの抑えられた窓から、北庭の気配が見えます。
この住宅は、北と南の両方の庭に包まれるようにリビングが配されています。リビングへは、木でできた大扉を開けて入ります。リビングへ入ることが印象的なものになるように。
大扉を開けた視線の先は、リビングを抜けて、南庭へすうっと抜けていきます。
南庭は雑木の庭。ソロの木が幽玄な幹肌を見せてくれます。リビングからデッキへ、デッキからベンチコーナーへ、床の高さと雰囲気を変えながらつながっていきます。ベンチコーナーの柱には、モッコウバラが絡んでいます。やがて蔓が延びていき、綺麗な花を咲かせてくれるのが楽しみです。設計の意図を汲んで植栽を施していただいた造園家、手入れを欠かさず丁寧に住んでいただいているお施主さんに、頭が下がる思いになります。
北庭は和風の庭。白砂利の敷かれた、落ち着いた庭の先には桜の木立が見えます。
木でできた家具と床は、家にしっとりとした質感を与えてくれます。単調で大きな白い壁と天井は、ものごとの背景としての心地よい余白になってくれます。そんな単純で素朴な家の内と外には、歩き回るといろいろな風景と場所が連なっていて、常に新鮮な気持ちになります。ちいさな楽しみが、ギュッとつまったような家。緑が植わり、家具類も置かれ始めて、この家が持つべき空気感が見え始めているように思いました。