京都市の北の方、碁盤の目が終わるところに、底なし沼があります。その名は深泥池。「みぞろがいけ」と呼びます。曲がりくねった道の向こう側に、華奢でたよりない柵越しに、その池は静かに広がっています。なんでも太古の時代からの植生が続いているとのこと。しかし、そのような学術的な価値とは無関係に、付近の小学生の間では、深泥池にまつわる「怖い話」の方がよっぽど興味の対象だったのです。
そのなかの話のひとつ。
夜、市バスの最終便は、行先表示板を真っ赤なライトで染めて走ります。書かれた表示は「深泥池ゆき」。そのバスに乗った人が、二度と帰ってこなかった、という話が多くあるというのです。
現在、実際には「深泥池ゆき」という便はないそうです。ですが、僕の記憶のなかのどこかに、たしかに見たように思うのです。赤く「目」を腫らした終バスが、池にむかって、ぬうっと現れるシーンを。観光で行かれた方は、ご自身の目でぜひ確かめてみてください。