こんな話を聞いたことがありました。
京都の古い町屋のなかには、それぞれの部屋を誰が使用するかによって、柱の太さや造り方を変えているものがあるそうです。たとえば、主人の部屋は柱も太く力強い雰囲気に、そして、女性が使用する部屋では、柱の角を大きく面を落として華奢に見せていた、とのこと。一目みただけでは同じように見えても、その部屋が何なのかを見事に表している。空間づくりの上質な遊びだと思います。そうした繊細な感性が、昔の日本の家にはあったということでしょう。
桜坂の家の主寝室には、窓際に鏡台がしつらえてあります。鏡台といっても、板一枚だけの、とても簡素なもの。厚さ3センチのこの板は、大工さんに頼んで小口をつるりと丸く仕上げてもらいました。さきほどの話を思い起こして、女性が使う場所としての柔らかい雰囲気を、この簡素なしつらえにも宿したいと思ったのでした。
一方で、この家の主人の書斎机は、大きな欅の一枚板。荒々しい男性的な風合いが魅力です。どちらの机にも、障子を通した柔らかい白い光に満たされた空間を用意しました。