しばらくブログを休んでしまっていた間に、いくつかの住宅の現場が少しずつすすんできました。現場に赴いていろいろなチェックや打合せを終えた後のフリータイムは、楽しみの時間でもあります。建設途中のその瞬間にしかない雰囲気というか、空間性みたいなものを、仕事から離れて楽しんだりしています。
例えば、「東山の家」の鉄筋コンクリート造の現場。1階の型枠が組みあがり、コンクリートを打設する前のこと。床版を支える多くのパイプの列柱が林立するなかに、型枠を洗浄した水が、水滴となって型枠の隙間から降ってきます。
コンクリートを勢いよく流し込んでいく前に訪れる一瞬の静寂。
事物を映し込む水溜り。
暗くよどんだ闇。そして光。
不安定なリズムを刻む、水滴の音。
そんななかに身を置いていると、これから創り出そうとしている空間とは別の類の、謎めいた雰囲気の空間を感じます。お、この感じは、もしやタルコフスキー的!?なんて、勝手な想像を巡らせるのも、大声では言えないけどちょっと楽しい時間です。
ソ連の映画監督アンドレイ・タルコフスキーの映画を観ていると、どの作品にも共通して「水」が印象的に登場します。廃屋の屋根の合間から落ちてくる雨水 が、床の上に、そして、暗示的に置かれた数々の空き瓶に降ってくる光景。独特の音を奏でながら、ずっとそんなシーンが長映しにされます。映画「ノスタルジ ア」の1シーン。
下の写真は、アンドレイ・タルコフスキーが映画のロケハンのために自ら撮ったポラロイドの写真集"Instant Light"からの1カット。この写真集のなかに満ちる独特の暗示に満ちた雰囲気に一番近いのは、完成した建物の空間よりも、建設中のときなのかもしれません。