横浜・片倉の家が上棟しました。旧家に遺された茶道具などを収蔵し、一部は再利用して建て替える計画です。茶庭のつくばいや紅葉も残しました。昔からあるそれらの茶道具や庭木が、しっくりと馴染む家にすること。おのずと、新しい家の設計は、和風の趣のあるものになりました。炉のきられた和室も備わります。
昔は家のまわりは林だったんですよ、今はもう家が立ち並んでしまったけれど。お施主さんからそのような話を聞きました。そういえば、最寄の地下鉄駅から階段をあがってくると、最初に見える光景は、地山の紅葉した眺め。風に葉が散り、そんな光景を眺めながら街道沿いの坂道をしばらくあがっていきます。現場の思い出は案外、こういう行き帰りのシーンがよく思い浮かぶものです。現場に着くまでの間、黙々と歩きながら、そんなふうにして家に辿り着く時間も、家の一部なんだな、と思うことがあります。
少し前、コンクリートの基礎ができあがった時のことでした。現場に来てチェックをしていると、思わぬ光景に思わずニンマリとしてしまいました。
これは猫か!?それにしては大きい気もするけど、きっと猫だな。3歩だけ足跡をくっつけて、どこかに行ってしまった。コンクリートを打ち終わって、職人さんが帰るのを待ってたな、そんな風に思うと可笑しさがこみあげてきました。
上棟式の折、あった、ありましたね、見ましたよ足跡! という話でお施主さんとも盛り上がったのですが、なんか足跡ちょっと大きかったですよね、と切り出したところ、タヌキかもしれないね、とお施主さん。え、タヌキ・・・?いるんですか? と聞くと、ええ、いますよタヌキ、歩いてます、と、近所に住んでいる監督さん。
タヌキが職人さんに見つからないようにこっそりと、隙をうかがっていたのでしょうか。かつてに比べるとうんと生息範囲も狭くなってしまったのでしょうけれど、まだタヌキが健在な街。そんな風土を感じながら家をつくることができるのは、妙な楽しみがあるように思います。
タヌキの足跡も、木の骨組みの下にそっと隠れて。
かつて林があった頃の風情と、旧家での思い出も、家の佇まいのなかに宿して。
じんわりと味わい深い家になるといいなあと思います。