私の設計アトリエの応接室に、ちいさな木製の窓があります。
その窓はちいさな中庭に面していて、テーブルについた来客のちょうど傍らにあります。
窓越しには緑が見えて、葉っぱの陰が外壁に映り込んでゆらめいている、そんな感じの眺めです。
気候のよいときは窓を開けると、気持ちよく風が抜けていきます。
窓があれば向こうの風景が見えるし、開ければ風が通る。
ごくあたりまえのことですが、そんなあたりまえのことが、ちょっといいと思えると、日々の暮らしは居心地の良いものになると思います。
この窓は、現場で建具屋さんに制作してもらったもの。タモの木を使い、ガラス戸と網戸が備わっています。
軸がずれながら開く「縦すべりだし窓」という形式。
好きな開き角度で留められ、ガラス窓の両面から拭き掃除ができるので、実用性を大事にした私の師匠が好んだ窓の形式です。
木製の窓もメーカー品があり、歪まないように中に鉄が仕込んであったり、いろいろな工夫がされているのですが、そのぶん、木の窓特有のやさしい風合いがどうも損なわれてしまいがちです。
そんなことからぼくは、現場で制作する窓をよく設計します。
湿気の多い季節には、木が膨れてちょっと開けにくくなったりすることもあるけれど、ハンドルをひねって窓を開けること自体がちょっと特別のことのように思える感覚は、アルミサッシでは得られないものです。
窓を開けた先にはどんな眺めになっているといいかな。そんなことを考えながら、間取りや窓や庭について思いを巡らせるのは楽しい時間です。