建築をやっていると、個人旅行でいろいろなところへ見に行きたくなります。
16年前に行ったポルトガル・リスボンは、独立して事務所を立ち上げたばかりでヒマだったこともあって、10月の気持ちのよい季節での旅行でした。
リスボンは新市街と旧市街がはっきり分かれた街です。それまで、アラン・タネール監督「白い町で」や、ヴィム・ベンダース監督「リスボン ストーリー」などで、ノスタルジックな雰囲気に溢れるリスボンの街並みを期待していましたから、空港からの道すがら最初に見たリスボンの新市街の無味乾燥さには、少々がっかりしたのでした。
その足でメトロに乗り、旧市街へ。深い地下ホームから延々とエスカレーターに乗って地上に向かう、タイムスリップしていくような不思議な感覚。
そして投げ出されるように突如地上へ。
そうして最初に出会う風景がこれ。
夕方、煙る街。エレクトリコと呼ばれる市電がけたたましい車輪の軋む音を立てながら走り去っていきます。
この煙、道端で魚を焼いている煙なのです。え、今の時代に道端で魚焼き!? と少々カルチャーショックを受けつつ、遠いところへ来たなあとしみじみ実感したのを覚えています。
匂いや音といった、目に見えないものが意外にも、物事のイメージを決定づけるように思いました。