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世田谷区でつくってきた「透かし庭の家」も、ついにお引き渡しを迎えました。
その前日、しばし空間に浸りました。
薄日が差し、室内は穏やかな自然の光に満たされていました。
時間を経るごとに味わいの増す家にしたい。そんなイメージを建て主と共有しながら、インテリアの素材もひとつひとつ吟味してできあがった空間です。
ツガ材の板壁は、今は淡く優しい色合いで、だんだんと飴色に深みをましていきます。
ブラックチェリー材の床フローリングも、ぐっと色が深くなっていくことでしょう。
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この家のなかで、密かに気に入っている場所があります。
密かに、というのも、実は表舞台のスペースではなく、ウォークインクローゼットのなかにつくられた小さなデスクコーナーだからです。
ちょっとした余白につくられた簡素な場所。
スリット窓から自然光が差し込んで、他に窓がない仄暗い空間のなかに、なにか安らぎの感覚と、集中を促すような雰囲気ができあがったのです。
そこは、かつてフィレンツェを旅したときに修道院のなかで見た、僧房の窓辺の空間に趣きが似ていたのです。
旅の記憶に出会う空間。
誰にも言っていないけど、僕にとってはかけがえのない空間です。