David J.Lockhart and Carrolee Barlow
心の発現:DNAアレイと脳研究
Expressing what's on your mind: DNA arrays and the brain.
Nat Rev Neurosci. 2001 Jan;2(1):63-8.
[PDFダウンロード]
・目次より概要「DNAアレイを用いると、今では一度に数千個の遺伝子の発現量を追跡することができる。この技術を神経系の研究に用いることにより、古くから存在する問題に新たな方法で取り組むことができる。LockhartとBarlowは、この分野の現状を検討し、神経科学分野へのDNAアレイ利用の方向性を明らかにすると同時に、この手法を用いる際に留意すべき具体的な問題点について検討した。」
・問題点「分子生物学的手法は、脳機能の基本的メカニズムに関する情報を提供するものの、少数の遺伝子や特定の細胞・分子過程に焦点を絞る必要がある。」
・「神経遺伝学の第一の目標は、特定の神経表現型を担う遺伝子や、さまざまな種類の細胞の活性、さまざまな脳領域に特有な構造及び機能を同定することである。」
・「オリゴヌクレオチドアレイには、いくつかの特別な利点がある。たとえば、cDNAやPCR産物といった物理的な中間体を経ずに、配列情報から直接設計・作成することができる。さらに、多数のプローブを用いて、検出の冗長性を高めることができる」
・「成体マウス脳の各領域における全体的な発現プロファイルは驚くほど類似しているが、かなりの数の遺伝子が領域間で発現量に差があり、少数ではあるが、かなりの数の遺伝子が、1つの領域でのみ発現し、その他の領域では発現していなかった。」
・「ほぼ全ての場合において実験は少なくとも2度実施すべきであり、反復実験はできる限り独立に行うべきである」
・「完全に独立な2回の実験を行い、厳密な解析基準を用いた場合、この程度の注意を払うことで低い偽陽性率(およそ13,000個の遺伝子あたり0~3個)が実現できる。」
・「QTL解析の場合、遺伝子はまず、ゲノム上での位置が同定されるのに対し、発現マッピングの場合、遺伝子は遺伝子発現量の測定に基づいて機能的に同定される。この2つの手法は相補的であり、標準的なQTL解析が表現型に関連する遺伝子差異を示す遺伝子や遺伝子座を同定するのに対して、発現による手法は、任意の遺伝的多様性に対する細胞学的影響の程度を測定する。」
・「広範な遺伝子発現データの科学的有用性を最大にするためには、発現データおよび関連データを標準化されかつ役に立つ書式で保存し、広く提供することが重要である。」
・和訳論文。日本語はやはり読みやすい。
・"心"という言葉を題目に入れているのは、なかなか野心的ですね。実際、"心"などとはまだまだ手の届かない領域ですが、いつか、心模様がアレイ上に映し出されるなんてことになるのでしょうか。
《チェック論文》
・Sandberg R, et al, Regional and strain-specific gene expression mapping in the adult mouse brain.,Proc Natl Acad Sci USA. 2000 Sep 26;97(20):11038-43.
心の発現:DNAアレイと脳研究
Expressing what's on your mind: DNA arrays and the brain.
Nat Rev Neurosci. 2001 Jan;2(1):63-8.
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・目次より概要「DNAアレイを用いると、今では一度に数千個の遺伝子の発現量を追跡することができる。この技術を神経系の研究に用いることにより、古くから存在する問題に新たな方法で取り組むことができる。LockhartとBarlowは、この分野の現状を検討し、神経科学分野へのDNAアレイ利用の方向性を明らかにすると同時に、この手法を用いる際に留意すべき具体的な問題点について検討した。」
・問題点「分子生物学的手法は、脳機能の基本的メカニズムに関する情報を提供するものの、少数の遺伝子や特定の細胞・分子過程に焦点を絞る必要がある。」
・「神経遺伝学の第一の目標は、特定の神経表現型を担う遺伝子や、さまざまな種類の細胞の活性、さまざまな脳領域に特有な構造及び機能を同定することである。」
・「オリゴヌクレオチドアレイには、いくつかの特別な利点がある。たとえば、cDNAやPCR産物といった物理的な中間体を経ずに、配列情報から直接設計・作成することができる。さらに、多数のプローブを用いて、検出の冗長性を高めることができる」
・「成体マウス脳の各領域における全体的な発現プロファイルは驚くほど類似しているが、かなりの数の遺伝子が領域間で発現量に差があり、少数ではあるが、かなりの数の遺伝子が、1つの領域でのみ発現し、その他の領域では発現していなかった。」
・「ほぼ全ての場合において実験は少なくとも2度実施すべきであり、反復実験はできる限り独立に行うべきである」
・「完全に独立な2回の実験を行い、厳密な解析基準を用いた場合、この程度の注意を払うことで低い偽陽性率(およそ13,000個の遺伝子あたり0~3個)が実現できる。」
・「QTL解析の場合、遺伝子はまず、ゲノム上での位置が同定されるのに対し、発現マッピングの場合、遺伝子は遺伝子発現量の測定に基づいて機能的に同定される。この2つの手法は相補的であり、標準的なQTL解析が表現型に関連する遺伝子差異を示す遺伝子や遺伝子座を同定するのに対して、発現による手法は、任意の遺伝的多様性に対する細胞学的影響の程度を測定する。」
・「広範な遺伝子発現データの科学的有用性を最大にするためには、発現データおよび関連データを標準化されかつ役に立つ書式で保存し、広く提供することが重要である。」
・和訳論文。日本語はやはり読みやすい。
・"心"という言葉を題目に入れているのは、なかなか野心的ですね。実際、"心"などとはまだまだ手の届かない領域ですが、いつか、心模様がアレイ上に映し出されるなんてことになるのでしょうか。
《チェック論文》
・Sandberg R, et al, Regional and strain-specific gene expression mapping in the adult mouse brain.,Proc Natl Acad Sci USA. 2000 Sep 26;97(20):11038-43.