最近,新研修医とともに病棟診療に当たっているが,ふと休日も睡眠時間も削っての勤務をどのように感じているのだろうかと思うことがある.医師の仕事については最近ようやくその過酷な勤務環境が報道され,病院・医療システムの破綻が知られるようになった.個人的にも慢性的な疲労感を抱え,割に合わない収入に我慢しつつ勤務を続けているが,それでも何とか頑張り続けているのは,やりがいとかプライドとか,患者・家族からの感謝とか,そんな心の支えがあってのことである.フランスのことわざに「ノーブレス・オブリージュ」というものがあるが,それは身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任があるという,欧米社会における基本的な道徳観である.医師の身分が高いかどうかは意見の分かれるところだが,私は先輩ドクターから知らず知らずのうちに,そのような道徳観を教わってきたような気がする.多くの医師は多かれ少なかれ「ノーブレス・オブリージュ」を心の支えの一部として過酷な勤務に耐えているのではないだろうか.
最新号の中央公論では「病院が崩壊する」という特集が組まれていて,現状とその打開策を紹介している.ご一読をお勧めするが,その中で久坂部羊氏による「そして医師はいなくなった」という論文のなかに以下のような記載がある.
「患者・家族は医師に過大な要求を突きつけ,ミスを隠してはいないかと目を光らせ,夜中でも医師なら診察して当たり前という態度に出る.社会も医師に敬意を払うどころか,目の敵にせんばかりに批判する.収入も命を救ったことにとても見合う額ではないのに,医療過誤を起こせば年収の何倍もの賠償を請求される.狭いマンションに住み,社会的な尊敬も受けず,長時間労働でろくに家族の顔も見られない生活の,どこがノーブレスなのか」.
これは決して誇張ではなく,今の研修医たちはこのような状況の中で医師としてのキャリアをスタートするわけである.何のために過酷な勤務に耐えるのか,我々指導医も明確な答えを示すことができているのか自信を持てない.
現状の解決にはノーブレスを優遇すること,そして患者の要求を適正化することが必要だ.ノーブレスを優遇するとは,単に経済的なバックアップを指しているのではなく,医師が働きやすい環境をつくることだ.私の周囲には共働きの医師が多いが,いずれも場合も育児をどのように行っていくかで悩んでいる.私のよく知っている麻酔科医は育児をしてくれる親親戚がいないためベビーシッターを雇ってまで働いている.もし社会が病院に保育所を併設するなどしてくれれば少なからぬ女性ドクターが復帰し,医師不足の緩和につながるであろう.
また誤解を恐れず述べるが,日本における患者の要求は肥大化している.医師をどれだけ増やそうがこのままでは間に合うはずがない.私が2年ほど経験したアメリカの医療では,患者はよほどのことがなければ病院にかからない.高額でかかれない面が大きいが,なんとか OTC(Over The Counter drug)で済まそうとする.これは裕福な家庭でもそうだ.そんなことで医療の需要と供給のバランスを取っている感じがした.現在の日本の医療の問題はそのバランスが大きく崩れていることである.いずれにしても「ノーブレス・オブリージュの崩壊」を食い止め,今後の医療を担う若いドクターが誇りをもった仕事ができるような方策を社会全体で考えていかねばならない.医学部に「地域勤務枠」を作ればすむような単純な問題ではないのである.
以下に参考とした書籍を紹介する
中央公論 2007年 06月号 [雑誌]
医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か
最新号の中央公論では「病院が崩壊する」という特集が組まれていて,現状とその打開策を紹介している.ご一読をお勧めするが,その中で久坂部羊氏による「そして医師はいなくなった」という論文のなかに以下のような記載がある.
「患者・家族は医師に過大な要求を突きつけ,ミスを隠してはいないかと目を光らせ,夜中でも医師なら診察して当たり前という態度に出る.社会も医師に敬意を払うどころか,目の敵にせんばかりに批判する.収入も命を救ったことにとても見合う額ではないのに,医療過誤を起こせば年収の何倍もの賠償を請求される.狭いマンションに住み,社会的な尊敬も受けず,長時間労働でろくに家族の顔も見られない生活の,どこがノーブレスなのか」.
これは決して誇張ではなく,今の研修医たちはこのような状況の中で医師としてのキャリアをスタートするわけである.何のために過酷な勤務に耐えるのか,我々指導医も明確な答えを示すことができているのか自信を持てない.
現状の解決にはノーブレスを優遇すること,そして患者の要求を適正化することが必要だ.ノーブレスを優遇するとは,単に経済的なバックアップを指しているのではなく,医師が働きやすい環境をつくることだ.私の周囲には共働きの医師が多いが,いずれも場合も育児をどのように行っていくかで悩んでいる.私のよく知っている麻酔科医は育児をしてくれる親親戚がいないためベビーシッターを雇ってまで働いている.もし社会が病院に保育所を併設するなどしてくれれば少なからぬ女性ドクターが復帰し,医師不足の緩和につながるであろう.
また誤解を恐れず述べるが,日本における患者の要求は肥大化している.医師をどれだけ増やそうがこのままでは間に合うはずがない.私が2年ほど経験したアメリカの医療では,患者はよほどのことがなければ病院にかからない.高額でかかれない面が大きいが,なんとか OTC(Over The Counter drug)で済まそうとする.これは裕福な家庭でもそうだ.そんなことで医療の需要と供給のバランスを取っている感じがした.現在の日本の医療の問題はそのバランスが大きく崩れていることである.いずれにしても「ノーブレス・オブリージュの崩壊」を食い止め,今後の医療を担う若いドクターが誇りをもった仕事ができるような方策を社会全体で考えていかねばならない.医学部に「地域勤務枠」を作ればすむような単純な問題ではないのである.
以下に参考とした書籍を紹介する
中央公論 2007年 06月号 [雑誌]
医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か
最近よくTVでも
「医療現場の崩壊!!過酷勤務の実態!!」
等特集を見ますね。
緊急、小児科、産婦人科が多いようですね。
365日働いて、不規則な食事と睡眠を
して勉強して研究して・・・。
そんな事をしていたら、お医者さんや看護師さん
の方が病気になっちゃいますよo(T□T)o"ヽ(・ω・; )
それでお医者さんが辞めて行ったら、
患者はどうなるのです~放置ですか~??
それにストレスいっぱいのお医者さんに
つめた~っく診察される患者も辛いです。
こう・・・上手くお互いが歩み寄れる方法は
ないでしょうか?(ノ△・。)
>>ふと休日も睡眠時間も削っての勤務をどのように感じているのだろうかと思うことがある
pkcdelta先生が「ちょっと休憩しようか?」
とか言って、休憩時間を作ったりは?
気分転換になりなせんか?
お医者さんに向かってなんですねー(笑)
>>また誤解を恐れず述べるが,
日本における患者の要求は肥大化している.
医師をどれだけ増やそうがこのままでは間に合うはずがない
・・・いっそのこと手塚治虫先生のBJみたいに
完全自由診療になる日も近いかもしれませんね(笑)
そのかわり・・・患者さんとの信頼と成功が
必要ですが(o_ _)ノ
第48回日本神経学会総会が始まってますね。
また、たくさんの論文が拝見できるのを楽しみに
待ってます!
私の父に関する、医師他の皆さんはとても
よくしてくださいます。
感謝の気持ちで一杯ですよ。過酷な勤務の中にも
ほっと一息つける時間を持てると良いですね。
お茶でも ( ^-^)o旦~~ どぞ
遅くなりましたがコメントありがとうございました.神経学会のシンポジウムでも今後の医療やレジデントの教育・医師偏在など多くの問題についてdiscussionされましたが,非常に難しい問題ばかりで暗澹たる思いです.その上,「神経内科」は診療科名よりはずされてしまう話が進行中のようで,憤懣やるかたないとはまさにこのことです.